Macaron Marriage
* * * *

 松島夫妻を見送ってから、萌音は久しぶりに自分らしさを取り戻せたような気分になった。

 今まで自由にしてきた分、そろそろ父親の意見を聞かないと……そう思って過ごしていた。でも現実はそうじゃないはず。

 たった一度しかない自分の人生なんだから、自分らしく生きなきゃ。自分の道は自分で切り拓かなきゃ意味がない。

 もう迷わない。私からちゃんと翔さんに伝えるんだ。

 寝る支度をしていた時にスマホの着信音が鳴り響き、画面に映し出された名前を見て萌音は頬を緩めた。画面をスワイプしてからスマホを耳に当てると、ずっと聞きたかった声が響いてくる。

「もしもし」
『遅くにごめん。もうそろそろ寝る時間かなって思ったんだけど、ずっと連絡出来なかったからさ……』
「うん、大丈夫。私も翔さんと話したいなって思っていたから……」

 萌音はベッドの上に座り、翔の声に耳を傾ける。その声はやはりどこか疲れているような印象を受ける。

「翔さん、疲れてる?」
『まぁこんなに人と会うのもなかなかないからね。そっちにいる時とは正反対の生活だよ。萌音はどう? 今日はドレスの引き渡しってメールに書いてあったけど』
「うん、すごく気に入ってくれたみたい。ご夫婦でいらしてね、ご主人には初めてお会いしたんだけど、すごくお似合いのご夫婦で素敵だった……」
『へぇ、それは良かったね。式はいつなの?』
「来月。都内の小さなレストランでやるんだって。また写真を送ってくれるって言ってたから楽しみ」
『そうなんだ。良かったね』

 声だけだと緊張はしないけど、触れることが出来ないのが寂しい。今どんな表情をしているのかしら……顔が見えないのがもどかしい。

『そういえば上野夫妻の結婚式のことでうちのスタッフが話したいことがあるらしいんだ。もし時間があればなんだけど、式場に行ってもらうことって出来るかな?』
「もちろん。明日でいいのかな?」
『明日で大丈夫? それなら俺から連絡しておくよ。何時なら良い?』
「明日は作業日だから何時でも平気」
『わかった。じゃあ決まったら連絡するよ』

 なんとなく電話を切るような雰囲気になると、萌音は胸が苦しくなるのを感じる。

 でも翔さんだって疲れてるし、明日も仕事だもの。ワガママは言えない。

『実は仕事が一日早く終わりそうなんだ。だから明日の夜にはそっちに帰る予定。ただ遅くなったら……』
「待ってる! 遅くてもいいから……待ってるから……来てくれたら嬉しい……」
『萌音?』
「だって……早く会いたいから……」
『……うん、俺も早く会いたいよ。萌音の部屋に寄るけど、無理に起きてなくていいからね』

 明日会える……そう思うだけでこんなにも希望が湧いてくる。

『愛してるよ、萌音』
「うん、私も……」

 電話を切ってからも、ドキドキが止まらない。愛を囁き合うって恥ずかしいけど、すごく幸せな気分にもなるのね……。
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