Macaron Marriage
「よし、じゃあ良かったらこちらをどうぞ。あなたならもしかしたら懐かしいって言うんじゃないかな」

 元基はにこやかに微笑むと、先ほど持ってきたお菓子を差し出す。紙に包まれているため中身は見えなかったが、促されるまま封を開けた萌音は喜びの声を上げた。

「これってゴーフルですか⁈」
「そう。うちのシェフが新作のデザートとして考えているものでね、フランスにいた池上さんならきっと喜んでくれるんじゃないかと思って持って来てみたんだ」
「喜ぶなんて……もう大好きです! まさかここで出会えるなんて……あの、食べてもいいですか?」
「どうぞ」

 居ても立っても居られず一口頬張ると、あまりの美味しさに溶けてしまいそうになる。その姿を見た元基が思わず吹き出す。

「あはは! これはシェフに好評だったと伝えないと」

 萌音があまりにも美味しそうに食べたのを見て、時田も一口食べてから目を見張る。

「わっ、美味しい。なんかワッフルみたい」
「ゴーフルは英語ではワッフルだからね。ワッフルを更に薄くプレスして、二枚の間にクリームを挟んだのがゴーフルなんだ」

 二人の話を聞いていた時、萌音の頭にふとあるお菓子にまつわる記憶が蘇る。

 フランスにいる時、たまたま日本人の友人にマカロンをお土産に渡したことがあったのだが、彼女はニヤニヤしながら萌音にこう言ったのだ。

『男の人に、簡単にマカロンを渡しちゃダメって知ってる?』

 知らないて言うと、彼女はこう続けた。

『マカロンにはね、"あなたは特別な人"っていう意味があるんだって。まぁフランスと違ってホワイトデーが存在する日本ならではのものだと思うけど』

 その時はどうせ恋なんてしないし、結婚してから旦那さんにプレゼントするのもありかもしれないと安易に考えていた。だけど今は……翔さんを心から愛してるって思うの。その気持ちが募るほど、もっと深く繋がりたいと欲張りになってしまう。

 今日はマカロンを買って帰ろうかな。そして翔さんが帰ってきたら、マカロンと一緒にきちんと自分の想いを伝えなきゃ。

 ゴーフルを完食した萌音は、翔に久しぶりに会えるという期待を胸に、突然ソワソワし始めるのだった。
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