嫌われ夫は諦めない
「どうだ、出来たぞ! 数が少なくなったらまた言ってくれ」
「あ、そう。……次は、馬小屋の掃除と、庭の草取りと、ついでに屋敷の壁の補修もお願いします」
「まったく、人使いが荒いな」
「嫌なら王都に帰ってくださって構いません」
「あー、わかったよ。馬小屋だな」
リディオは気怠そうにしながらも馬小屋に向かおうとしたところで、シャスナに話しかけた。
「シャスナ、これだけ仕事があるなら下働きを雇わないのか? さすがに屋敷を維持するのは、お前ひとりではできないぞ」
「わ、わかっているけど……、お金がないのよ。ここは土地も痩せているから、作物は育たないし。餓死者を出さないのがせいぜいなの。それなのに贅沢なんてできないわ」
「お前なぁ、侯爵手当があるだろうが」
スティーズレン侯爵家の領地収入は微々たるもので、本来は貴族籍として支給されるはずの手当もない。それは父であるイヴァーノが王妃の恨みを買ったからだと聞いているが、実のところよくわかっていない。とにかくお金がないことだけははっきりしている。
「昔、お父様がいろいろあったみたいなのよ。詳しくは知らないけど」
「なっ、手当を貰っていないのか?」
「えぇ、だから領地からの税収が頼りなんだけど、我が家がこんなだから上手くいかなくて。えへへ」
「えへへって、笑っている場合じゃないだろう? チッ、面倒くせぇなぁ」
頭をポリポリとかいたリディオは、「少し出かけてくる」と言って馬小屋に向かった。
(面倒なら、もう帰ったらいいのに)
シャスナはリディオの後ろ姿を見ながら、台所に向かう。今日は通いで来てもらっている料理係が休みだから、自分で食事を用意しないといけない。父の食べられるものを、と考えるとため息がでてしまう。貧乏だといっても、高級な食材に馴染んだ父の贅沢な口に合うものを用意しないと、病気の身では呑み込めないらしい。
昨日は結局、リディオに驚いてリコの実を取り損ねてしまった。父と娘、ひっそりと生きていくつもりでいたのに、本当にどうしたらいいのだろう。はぁ、とシャスナはまた一つため息をつくと、足早に屋敷へ向かって行った。