誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
 この家を出ようと何度も思ったが、そのたびに連れ戻された。
 どうして手元に置いておく必要があるかわからなかったが、何度も何度も探しに来る宗次さんとお父様である松原さんに申し訳なくなり、逃げ出すことをやめた。
 
 最近ではもう一生このままここでひとりで過ごしていくのか、と諦めにも似た気持ちが沸き上がる。
 小さい頃、父と母のように愛し合って結婚をして温かい家庭を作りたい。そんな些細な夢を持っていたが、今ではそんなのは夢物語だと理解した。
 
 寂しさを紛らわせるために、屋敷の図書室からこっそりと書籍を借りてはそれを読んでいた。ありがたいことに法律関係の本や、海外の本などがあり、語学を覚えたりすることで虚しさを紛らわせることができていた。

 少し早く目が覚めてしまったこともあり、そんな昔のことを思い出して窓の緑をぼんやりと見ていた私だったが、柱に掛けられた時計を見てハッとする。
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