誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
 あたり前のように私に乗るように促す松前さんに、慌てて口を開いた。

「あの、こんなことをしていただいたら申し訳ないです」
「あなたはこのビルの御曹司の婚約者です。これぐらいは当然ですよ」
 その言葉に、私はその巨大な建物を見上げた。

「さあ、いきましょう」

 私が覚悟を決めて車に乗り込むと、その乗り心地のよい高級車は音も無く発進した。
数十分走ると、見慣れた門が見えてきて、緊張から胃がキリキリと痛む。朝、あんなふうに出て行き、戻ってきた私をどう思うのだろう。

「正面玄関へ止めればいいですか?」
 穏やかな運転手さんの言葉に、私は和館へと続く道を案内する。
 あの質素な家を見ても、松前さんは何も言わなかった。
 ほとんど私物がない私だったが、両親の遺影と少しの荷物をバッグへと詰め込む。
 いい思い出はないが、それでもお世話になった場所だ。
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