片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「分子が大きく食材に浸透するのに時間がかかるためですね。今回の料理に限らず、調味料は基本の『さしすせそ』の順番に入れると覚えておくと便利です。自宅では面倒かもしれませんが仕上がりに差が出るので、時間があるときはぜひ」
すっかり丸暗記してしまったマニュアルに、自分の言葉を加えて作業を進めていく。
智美さんは普段ほとんど料理をしないらしく、包丁さばきもぎこちなく、少し手こずっているようだった。
「私料理のセンスないかも……」
「始めたばかりですから大丈夫ですよ。今はレシピをちゃんと守って作ることを第一に進めましょう。それで、楽しく作れたらバッチリです」
「楽しくかぁ。私、実家暮らしだから全然料理しないんですよね。緋真先生は家でも料理されるんですか?」
「料理は唯一の趣味みたいなもので、毎日してますよ。私も実家暮らしが長かったですけど、わりとしてましたね。SNS用に動画撮ることもあったので」
「……長かった、ってことは、今は実家じゃないってことですよね」
何気ない言葉を指摘され、一瞬言葉に詰まる。既婚者であることは隠していないが、なんとなく彼女の目が鋭く感じた。
「ええ、まあ。今は夫と一緒に」
「へぇ、緋真先生結婚されてるんですね。羨ましいです。ご主人、どんな方なんですか?」
「どんな……優しくて誠実な方、ですよ。あっそれじゃあ、煮込んでいる間に汁物の準備をしましょうか」
仕事でプライベートな話をするのは気が引ける。伊織さんは医師だし、あまり職業のことについても話しづらいのだ。
当たり障りのない返答をして話を切り替えると、智美さんはやや不満そうに唇を尖らせた。
「それなら料理も楽しいですよね。毎日食べてくれる人がいるんだもの」
「……そうですね。誰かに食べてもらえるというのは、料理の楽しみのひとつでもあると思いますよ」
すっかり丸暗記してしまったマニュアルに、自分の言葉を加えて作業を進めていく。
智美さんは普段ほとんど料理をしないらしく、包丁さばきもぎこちなく、少し手こずっているようだった。
「私料理のセンスないかも……」
「始めたばかりですから大丈夫ですよ。今はレシピをちゃんと守って作ることを第一に進めましょう。それで、楽しく作れたらバッチリです」
「楽しくかぁ。私、実家暮らしだから全然料理しないんですよね。緋真先生は家でも料理されるんですか?」
「料理は唯一の趣味みたいなもので、毎日してますよ。私も実家暮らしが長かったですけど、わりとしてましたね。SNS用に動画撮ることもあったので」
「……長かった、ってことは、今は実家じゃないってことですよね」
何気ない言葉を指摘され、一瞬言葉に詰まる。既婚者であることは隠していないが、なんとなく彼女の目が鋭く感じた。
「ええ、まあ。今は夫と一緒に」
「へぇ、緋真先生結婚されてるんですね。羨ましいです。ご主人、どんな方なんですか?」
「どんな……優しくて誠実な方、ですよ。あっそれじゃあ、煮込んでいる間に汁物の準備をしましょうか」
仕事でプライベートな話をするのは気が引ける。伊織さんは医師だし、あまり職業のことについても話しづらいのだ。
当たり障りのない返答をして話を切り替えると、智美さんはやや不満そうに唇を尖らせた。
「それなら料理も楽しいですよね。毎日食べてくれる人がいるんだもの」
「……そうですね。誰かに食べてもらえるというのは、料理の楽しみのひとつでもあると思いますよ」