片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「わ、ありがとうございます。ぜひ、お好きなように呼んでください」
「はい。あ、私のことも下の名前で呼んでほしいです。名字、あまり好きではないので」
「智美さんですね。わかりました」

 何度も通ってくれる生徒の中には、親しみを込めて下の名前を呼んでいる方もいる。だからあまり呼び方は気にしないのだが、初めての授業で自らお願いされるのは初めてだ。
 
「それじゃあ、二人きりなので早速始めましょうか。今日は和食の基本メニューについて学んでいきますね」
「はい、よろしくお願いします。あと、すみません貸しきりにしちゃって。こっちのほうが緋真先生とゆっくりお話しできるかなと思ったので」
「え?」
「緋真先生のファンなんです。だから、料理のこととか含めていろいろ聞きたいなぁって」

 そのためにわざわざ貸し切りにしたというのだろうか。他の生徒たちがいても、ある程度全員と話すことはできるのに。

 もしかすると熱心なファンなのかもしれない。いずれにせよ、高いお金を払って予約してくれているのだから、ありがたく思わないと。

「もちろんです。聞きたいことがあれば作業の途中でも構わないので、いつでも聞いてください」

 営業スマイルを浮かべると、智美さんも嬉しそうに微笑んでくれる。笑顔まで愛らしくて、男性が好きそうなタイプだなと思いながら授業を開始した。



「――煮物は水が十に対して、みりんと醤油は一の割合で煮るのが基本です。割合で覚えると、分量が変わってもわかりやすいですよ」
「結構薄めなんですね」
「最初は薄いですが、煮込んでいくうちに濃くなるので安心してください。それから、調味料を入れる順番ですが、砂糖から入れていきます」
「どうしてですか?」
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