片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「だ、ダメだ……伊織さんがわからない……緋真ちゃんは美人さんだよ、大丈夫。私が保証するから」
「あはは、ごめんね郁ちゃん……フォローさせて」
「お世辞じゃないからね? もっと自信持って。緋真ちゃんと一緒に寝て何の気も起きない伊織さんがおかしいから、やっぱり浮気ってことはないと思う」

 その理論はどうなんだろうと首を傾げるが、郁ちゃんは自信満々だ。
 そして、核心を突くような目で私を見た。
 
「一応確認だけど、緋真ちゃんはしたいってことでいいんだよね?」

 正直、伊織さんと体を重ねることに躊躇してしまう自分がいる。言うまでもなく、原因は私の体の問題だ。けれど私は伊織さんとちゃんと夫婦になりたいし、いつかは子供だってほしいと思っている。そして、それ以上に――

「うん……。私は伊織さんのことが好きだから」

 彼が私をどう思っているのかはわからないが、この気持ちだけはどうしようもない事実。

 素直に打ち明けると、郁ちゃんは瞳をうるうるとさせてこちらを見ていた。

「緋真ちゃん……恋してるんだね。応援するよ! 伊織さんのことベったべたに惚れさせちゃお」
「あ、ありがとう。べったべたは無理かもしれないけど……。それでね、郁ちゃんに相談があって」
「うん?」
「えっと、私……実はその、経験がなくてですね。どう誘っていいか、アドバイスをもらえたらなぁと……」
 
 消え入りそうな声でもごもごと口にすると、郁ちゃんはぽかんと口を開けたまましばし停止した。そして、本日三度目の驚きの声をあげた。

「え、え! 経験ってそういうこと……だよね?」
「はい……情けないことに……」
「情けなくなんかないよ。初めての人が旦那さんなんて素敵。いいね~そういうの」

 郁ちゃんは揶揄するどころか、うっとりと明後日の方向を見つめる。今まで経験がないこともコンプレックスに感じていたのに、そういうものなのだろうか。きっと、ないものねだりなのかもしれない。

「それでどう誘ったらいいかってことだよね? 改めて聞かれると難しいな~」
「ご、ごめんね。些細なことでも何でもいいからアドバイスもらえると……」

 藁にも縋りたい思いで懇願すると、郁ちゃんは得意げに「任せて!」と胸を張ってみせる。その姿はやっぱりどこか幼く見えたけれど、不思議と頼もしいなと思えた。

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