片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
 幼いころに妖精だと思った彼女は、控えめな色香溢れる女性へと成長していた。

 本人はコンプレックスのせいか随分と自分に自信がなかったようだが、彼女は美しかった。薄化粧である故の透明感は、元の作りが良くなければ決して出せないものだ。

 二十九歳の緋真に再会し、心惹かれたあとは一瞬だった。

 緋真の何事にも真っ直ぐで一生懸命な性格、周りを気にしすぎる優しさ、照れながらも気持ちを伝えてくれる素直さ――正直、事故のことがなくても、結婚したいと思うほど魅力的な女性だったのだ。ベタなことを言えば、胃袋を掴まれたことも付け加えておく。

 いつかは緋真に話したほうがいいとは思っているが、無理に思い出させる必要もない。

 そして願わくば、もう少しだけ時間がほしい。彼女がこの結婚を負い目に感じてしまわないように、真実を知ったとしても疑いの余地もないくらい愛を注がなければならないのだから――。

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