片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
忍び来る狂気


 
 それから、平凡な日常が戻ってきた。伊織さんは毎日たくさんの愛を注いでくれるし、直接的なスキンシップも多い。彼以外と結婚生活を送ったことはないので比べようもないが、おそらくとても甘やかで幸せな結婚生活なのだと思う。

 仕事終わり、シフトが被った郁ちゃんに近況を報告すると、彼女は心底羨ましそうな声をあげた。

「いや~ん、ラブラブで羨ましい! 私も結婚したいよ~」
「元はと言えば郁ちゃんのおかげだよ。ありがとう」
「私なんてちょーっとアドバイスしただけだよ? なのに、元々一目惚れで想い合ってましたなんて、運命みたい。お見合い結婚も侮れないね」

 郁ちゃんの言葉に照れくささを感じながらも、嬉しく思う。改めて、お見合いの相手が伊織さんでよかった、と。

「それに緋真ちゃん、ちょっと変わった気がする」
「変わったって?」
「なんだろう、雰囲気とか。服だって前まで明るい色のものとか着るイメージなかったし」

 指摘をされて、自分でも意識していなかった変化に気付かされる。
 ここ最近、前まで諦めていたお洒落にも少しずつ気を使うようになった。傍から見れば劇的な変化ではないが、私の中では普段着ない色の服を買うだけでも大きな進歩に思えた。

 もちろん、きっかけは伊織さん。彼がいつだって私の自己肯定感を高めてくれるから、もう少し自信を持ってもいいのかな、と思い始めていた。

 この年になって、そんな風に思えるなんて……。伊織さんにはやはり感謝しかない。


「あ~緋真ちゃんの惚気話もっと聞きたい! ちょっと寄り道して帰らない? あ、でも伊織さんのご飯の準備あるか」
「えっと、今日は伊織さんとご飯に行く約束をしてて……」
「デート? 羨ましい!」

 普段、伊織さんと仕事終わりに会うことはまずない。彼の仕事が終わる時間は日によって違うし、基本的に夜遅い帰宅になるからだ。

 今日は終わるのが早そうだと伊織さんから連絡があり、たまには外食でもしようかと連絡を取り合っていた。
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