BODY BLOW ~Dr.剛の恋~
しばらくして、私と鈴子は取調室を出されて会議室風の部屋に通された。
いくつもの会議テーブルとパイプ椅子。
正面にはホワイトボードもある。
テレビでよく見るままの部屋。

ガチャ
ノックもなくドアが開く。

まず入って来たのは取調室にいた私服警官。
それに続いて、
えっ!
嘘。
あの人が入ってきた。

鈴子が驚いて私を見ている。
もちろん、私だってびっくりして言葉が出ない。

「どうぞ」
警官が私たちと向かい合う席に座るよう促すと
「はい」
ニコリともせずに席に着く。

仕事帰りなのだろうか。スーツ姿。
カバンから書類を出し、何かを見せている。

「では、登記上はあなたが経営者なんですね?」
「はい。しかし、実際の経営は彼女に任せています。」

野崎亮平。40歳。
彼に会うのは1年半ぶり。
春から私立高校の教頭になったと聞いた。
眼鏡ときちんと整えられた容姿がいかにも数学教師って感じで、一見冷たそうな元旦那。

「話を聞く限り、彼女たちは被害者のように思いますが?なぜ、取り調べを受けたり、僕まで呼び出されなくてはいけないんでしょうか?」
私たちが思っていた疑問を亮平が口にする。
「それは、彼らが『平井さんに誘われて店に行った』と言っているからです。もちろん、彼らのやったことは犯罪ですので捜査しますが、それと並行して彼らの言い分も調べなくてはいけませんので」

「私に誘われたっていうのは、ネットの書き込みのことですか?」
私も思わず口をはさむ。
「そのようです」
すでに内容も知っているであろう警官は、憐れむように私を見る。

きっと、今日見せられた写真も、今までに書き込まれた中傷文も、すべて知っているのだろう。

「じゃあ、誰かの嫌がらせで。私は被害者だとわかっていますよね」
「それを確認するために、伺っています」
警官は私と亮平に向かって意味ありげな視線を向ける。
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