BODY BLOW ~Dr.剛の恋~
10年前。
俺は2年目の研修医として今の病院に勤務していた。

その頃の俺は自信家で、自分なら何でも出来ると本気で思っていた。
小さい頃から勉強は出来たし、スポーツだって苦手ではなかった。
母子家庭で育ったこと以外、何の不自由も感じることはなかった。
高校は地元の公立高校に進学し、大学も苦労なく医大に進んだ。
学費は奨学金でまかない、バイトをしながら自分の力だけで医者になった。
子供が好きだという理由で、小児科を選んだ。
何の挫折も味わうことなく生きていた。

そんな俺も研修医2年目となり、主治医として患者を受け持つようになる。
何人か目に受け持った患者が、奏太(かなた)だった。
奏太は5歳の男の子。
継続する発熱の原因精査のため入院していた。
朝は元気なのに、夕方になると熱が出る。
肺炎を疑ったが・・・肺のレントゲンも異常なし。
血液検査で、炎症の数値も上がってこない。
色々調べても原因が分からなかった。
初めのうちは奏太も元気で、少しずつでも食事をとり熱のないときには遊び回っていた。
けれど、入院が1週間を超えた頃、奏太の様子が変わりはじめる。
日中も熱は下がることがなくなり、首のリンパ節が腫れはじめた。
俺は白血病や、悪性リンパ腫を念頭に検査を進めた。
もちろん指導医も付いてはいたが、俺は自分1人で出来ると思っていた。過信があった。
自分の信じた結果を求めるために検査をし、周りが見えなくなっていた。
結果、病名が分かったときには治療が間に合わなかった。
奏太は白血病やリンパ腫など癌のような病気ではなく、血球貪食症候群という病気だった。
本来自分の体の中で不要となった細胞を処理してくれるマクロファージという細胞が、なんだかのきっかけで暴走してしまい、血球などの必用な細胞を壊していく病気。
進行が早いのが特徴で、早く気づけるかどうかが救命の鍵となる。
奏太は10日間の昏睡状態の後に亡くなった。
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