モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!
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「北山さん……!」
榎本さんは何か言いかけていたが、私は部屋を飛び出した。そのまま離宮を出て、待たせていた馬車に乗る。屋敷へ帰るよう指示したが、頭の中は混乱しきっていた。
(グレゴール様の真意は……?)
彼を信じたい、と思う。聖女の榎本さんと私とでは、確かに立場は違う。扱いが異なるのかもしれない。それにこの前は、側妃以外の道も用意してあると言っていた。
(確かめるしかない……)
屋敷へ戻ると、ヘルマンが目を丸くして出迎えた。
「お早いお帰りですね」
「ええ……。グレゴール様はもう帰られました?」
「いえ、まだでいらっしゃいますが」
やはりか、と私は安堵した。ならば、今はチャンスだった。
「そうなんですね。少し疲れたので、私は部屋で休みます」
「それでは、お邪魔しないようにいたしますね」
丁重に答えると、ヘルマンは下がった。私は、一度自室へ戻ってから、そっと扉を開けて屋敷内の様子をうかがった。メルセデスは、不在らしい。使用人たちも休憩に入っているのか、人気は少なそうだ。
(今のうちに……)
人目を気にしながら、私はとある部屋へと向かった。グレゴールの書斎だ。一度も足を踏み入れたことはないが、調べ物をする際、彼はたいていここへ閉じこもる。召喚に関する文献があるとしたら、きっとここだろうと考えたのだ。
周囲に人がいないのを確認して、私はそっと書斎の扉に手をかけた。幸い、施錠はされていなかった。音を立てないように入り込むと、きょろきょろ内部を見回す。
(あるとしたら、この辺り……?)
書斎の中央には、年季の入った机がでんと置かれていた。様々な書籍が積んである。私は、片っ端から書名をチェックした。法律、経済、外交……。家庭教師に付いて必死に学んだおかげで、書名を一瞥しただけで、内容は見当が付いた。
書籍の山をあれこれひっくり返していると、ぶ厚い本が出て来た。古すぎて、書名は正確には判読できないが、どうやら歴史に関する物らしい。
開いてみると、やはりイルディリア王国の歴史が綴られていた。パラパラめくってみると、とあるページに栞が挟んである。開いてみると、『異世界より聖女と共に召喚されし存在』とあった。
(これだ!)
だが、恐る恐る読み進めたものの、記載内容は『そういう事例があった』というだけだった。
(やっぱり、戻る方法が無いと言うのは本当なのか……)
がっかりしたようなほっとしたような、不思議な気持ちだ。取りあえず、ここを漁ったことがグレゴールにバレないよう、私は本を元に戻そうとした。
「きゃっ……」
その時、本の山がバラバラと崩落してしまった。慌てて元に戻そうとした私だったが、一番下にあった本に、ふと目が留まった。臙脂色で、先ほどの本よりさらに古びている。
何となく気になって、私はその本を手に取った。書名は擦り切れて、完全に判読不能だ。ページを開けば、黄ばみきっていた。
早く退室すべきとわかってはいたが、私はその本をパラパラとめくり続けた。その時だった。私は、何やら赤い印が付いているページがあるのに気付いた。
(何!?)
目を凝らして、掠れた文字を追う。そして、私は目を疑った。
『異世界から召喚した者を元の世界へ戻すには、次の方法がある。なおこれは、聖女に限らず……』
その時、ギイと音がした。ハッと顔を上げれば、書斎の入り口にグレゴールが佇んでいた。
「人の書斎で、何をしている……」
言いながら入って来た彼は、私が手にしている本を見て、顔色を失った。
榎本さんは何か言いかけていたが、私は部屋を飛び出した。そのまま離宮を出て、待たせていた馬車に乗る。屋敷へ帰るよう指示したが、頭の中は混乱しきっていた。
(グレゴール様の真意は……?)
彼を信じたい、と思う。聖女の榎本さんと私とでは、確かに立場は違う。扱いが異なるのかもしれない。それにこの前は、側妃以外の道も用意してあると言っていた。
(確かめるしかない……)
屋敷へ戻ると、ヘルマンが目を丸くして出迎えた。
「お早いお帰りですね」
「ええ……。グレゴール様はもう帰られました?」
「いえ、まだでいらっしゃいますが」
やはりか、と私は安堵した。ならば、今はチャンスだった。
「そうなんですね。少し疲れたので、私は部屋で休みます」
「それでは、お邪魔しないようにいたしますね」
丁重に答えると、ヘルマンは下がった。私は、一度自室へ戻ってから、そっと扉を開けて屋敷内の様子をうかがった。メルセデスは、不在らしい。使用人たちも休憩に入っているのか、人気は少なそうだ。
(今のうちに……)
人目を気にしながら、私はとある部屋へと向かった。グレゴールの書斎だ。一度も足を踏み入れたことはないが、調べ物をする際、彼はたいていここへ閉じこもる。召喚に関する文献があるとしたら、きっとここだろうと考えたのだ。
周囲に人がいないのを確認して、私はそっと書斎の扉に手をかけた。幸い、施錠はされていなかった。音を立てないように入り込むと、きょろきょろ内部を見回す。
(あるとしたら、この辺り……?)
書斎の中央には、年季の入った机がでんと置かれていた。様々な書籍が積んである。私は、片っ端から書名をチェックした。法律、経済、外交……。家庭教師に付いて必死に学んだおかげで、書名を一瞥しただけで、内容は見当が付いた。
書籍の山をあれこれひっくり返していると、ぶ厚い本が出て来た。古すぎて、書名は正確には判読できないが、どうやら歴史に関する物らしい。
開いてみると、やはりイルディリア王国の歴史が綴られていた。パラパラめくってみると、とあるページに栞が挟んである。開いてみると、『異世界より聖女と共に召喚されし存在』とあった。
(これだ!)
だが、恐る恐る読み進めたものの、記載内容は『そういう事例があった』というだけだった。
(やっぱり、戻る方法が無いと言うのは本当なのか……)
がっかりしたようなほっとしたような、不思議な気持ちだ。取りあえず、ここを漁ったことがグレゴールにバレないよう、私は本を元に戻そうとした。
「きゃっ……」
その時、本の山がバラバラと崩落してしまった。慌てて元に戻そうとした私だったが、一番下にあった本に、ふと目が留まった。臙脂色で、先ほどの本よりさらに古びている。
何となく気になって、私はその本を手に取った。書名は擦り切れて、完全に判読不能だ。ページを開けば、黄ばみきっていた。
早く退室すべきとわかってはいたが、私はその本をパラパラとめくり続けた。その時だった。私は、何やら赤い印が付いているページがあるのに気付いた。
(何!?)
目を凝らして、掠れた文字を追う。そして、私は目を疑った。
『異世界から召喚した者を元の世界へ戻すには、次の方法がある。なおこれは、聖女に限らず……』
その時、ギイと音がした。ハッと顔を上げれば、書斎の入り口にグレゴールが佇んでいた。
「人の書斎で、何をしている……」
言いながら入って来た彼は、私が手にしている本を見て、顔色を失った。