モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!
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「このイルディリア王国へ来てよかったと、私は心から思っています。ここへ来たおかげで、私は本来の自分を取り戻すことができました。元々の私のキャラクターで、のびのびと生きていけるのは、この世界だからこそです」
それに、と私は内心付け加えた。
(グレゴール様と、離れたくない……)
例えグレゴールが、いつか他の女性と結婚しようとも。彼が、私を利用したとしても。帰れる方法を知りながら、私を欺いていたとしても。それでも私は、彼のいるこの世界に留まりたかったのだ。
「ご家族は、心配なさっているのではないかしら?」
メルセデスは、案じるように優しく尋ねた。そうですね、と私は頷いた。
「それを天秤にかけても、私はここへ残る道を選びます」
「お友達や、恋人。彼らのことも、もういいというのね?」
メルセデスが、念を押す。
「友達なんて、いませんでしたから。……恋人も」
そう、恋人なんていなかった。好きな人も。増田さんに対する感情も、今となっては、恋と呼べるものではなかったと思う。
(それくらい、グレゴール様が好き……)
メルセデスは、じっと私の顔色を見ている。彼女に内心を悟られないよう、私はテキパキと告げた。
「あっ、でも将来のことは、まだ決断できていないのですけど。側妃を目指してきたわけですが、急にその話も怪しくなってきましたし。グレゴール様は、お仕事も見つけてくださっているようですけど、すぐには決められません」
「あら、それは当然よ。ゆっくり考えるといいわ」
メルセデスは、穏やかに微笑んだ。
「私としては、ハルカが大好きだから、正直その決断は嬉しいわ。……ちなみに、側妃と仕事以外の道も考慮に入れる気は、無いかしら?」
「それ以外?」
私は、首をかしげた。メルセデスが、かぶりを振る。
「いえ、何でも無いわ。じゃあ……」
彼女が立ち上がろうとしたその時、ノックの音がした。ヘルマンであった。
「失礼いたします。ハルカ様に、お客様でございます」
驚いたことに、ヘルマンの背後に立っていたのは、マリアとアンネであった。神妙な顔つきをしている。
「あらら? 謝罪に来たのかしら?」
メルセデスが、にやにや笑う。すみません、と二人は同時に叫んだ。
「その節は、ハルカさんにひどい真似をして……。あの時は、カロリーネ様のご命令に従いましたが、ハルカさんの爪に憧れていたのは本心なんです。ほら、実際にやってみました!」
マリアとアンネが、それぞれ両手をかざす。私は、目を見張った。二人の爪は、美しく飾られていたのだ。
「あんな仕打ちをしておいて、今さらお願いできる義理でないことはわかっています。ですが、もし機会をいただけるのなら、是非アドバイスをいただきたく……」
メルセデスが、私の方を向く。
「この子たちの事情も、わかってあげて。あの後グレゴールから聞いたのだけれど、二人はカロリーネに脅されていたそうなの。言う通りにしないと、父親の爵位を剥奪すると」
まあ、と私は憤った。マリアが、力説する。
「あの時お話ししたことは、全て真実です。ハルカさんの爪に憧れていたのも、カロリーネ様にうんざりしていたのも!」
「今やカロリーネ様の影響力は、大分弱まりましたし。それに、もし家に何かあれば、ハイネマン公爵がお力添えくださるそうですの」
アンネが付け加える。へえ、と私は目を見張った。
「ですからこれで、安心してハルカさんと交際できますわ。もし、許していただけるのなら、ですが……」
アンネの語尾が小さくなる。私は、順に二人の手を取った。
「もちろんです。この世界でお友達ができるなんて、こんな嬉しいことはありませんもの。しかも、大好きな爪の話ができるなんて」
二人が、ぱあっと顔を輝かせる。
「ありがとうございます!」
「どうぞ、部屋へ入って……。あ、メルセデス様もどうぞご一緒に」
私は誘ったが、メルセデスはかぶりを振った。
「私は遠慮するわ。あまり大勢でつるむのは、好きじゃないのよね」
大勢、という人数ではないと思うのだけれど。メルセデスは、さっさと踵を返してしまった。部屋を出て行きざま、彼女は私の耳に囁いた。
「ファッショントークで息抜きなさい」
どうやら、気を利かせてくれたらしい。メルセデスの心遣いに感謝しながら、私はマリアたちを部屋へ通したのだった。
それに、と私は内心付け加えた。
(グレゴール様と、離れたくない……)
例えグレゴールが、いつか他の女性と結婚しようとも。彼が、私を利用したとしても。帰れる方法を知りながら、私を欺いていたとしても。それでも私は、彼のいるこの世界に留まりたかったのだ。
「ご家族は、心配なさっているのではないかしら?」
メルセデスは、案じるように優しく尋ねた。そうですね、と私は頷いた。
「それを天秤にかけても、私はここへ残る道を選びます」
「お友達や、恋人。彼らのことも、もういいというのね?」
メルセデスが、念を押す。
「友達なんて、いませんでしたから。……恋人も」
そう、恋人なんていなかった。好きな人も。増田さんに対する感情も、今となっては、恋と呼べるものではなかったと思う。
(それくらい、グレゴール様が好き……)
メルセデスは、じっと私の顔色を見ている。彼女に内心を悟られないよう、私はテキパキと告げた。
「あっ、でも将来のことは、まだ決断できていないのですけど。側妃を目指してきたわけですが、急にその話も怪しくなってきましたし。グレゴール様は、お仕事も見つけてくださっているようですけど、すぐには決められません」
「あら、それは当然よ。ゆっくり考えるといいわ」
メルセデスは、穏やかに微笑んだ。
「私としては、ハルカが大好きだから、正直その決断は嬉しいわ。……ちなみに、側妃と仕事以外の道も考慮に入れる気は、無いかしら?」
「それ以外?」
私は、首をかしげた。メルセデスが、かぶりを振る。
「いえ、何でも無いわ。じゃあ……」
彼女が立ち上がろうとしたその時、ノックの音がした。ヘルマンであった。
「失礼いたします。ハルカ様に、お客様でございます」
驚いたことに、ヘルマンの背後に立っていたのは、マリアとアンネであった。神妙な顔つきをしている。
「あらら? 謝罪に来たのかしら?」
メルセデスが、にやにや笑う。すみません、と二人は同時に叫んだ。
「その節は、ハルカさんにひどい真似をして……。あの時は、カロリーネ様のご命令に従いましたが、ハルカさんの爪に憧れていたのは本心なんです。ほら、実際にやってみました!」
マリアとアンネが、それぞれ両手をかざす。私は、目を見張った。二人の爪は、美しく飾られていたのだ。
「あんな仕打ちをしておいて、今さらお願いできる義理でないことはわかっています。ですが、もし機会をいただけるのなら、是非アドバイスをいただきたく……」
メルセデスが、私の方を向く。
「この子たちの事情も、わかってあげて。あの後グレゴールから聞いたのだけれど、二人はカロリーネに脅されていたそうなの。言う通りにしないと、父親の爵位を剥奪すると」
まあ、と私は憤った。マリアが、力説する。
「あの時お話ししたことは、全て真実です。ハルカさんの爪に憧れていたのも、カロリーネ様にうんざりしていたのも!」
「今やカロリーネ様の影響力は、大分弱まりましたし。それに、もし家に何かあれば、ハイネマン公爵がお力添えくださるそうですの」
アンネが付け加える。へえ、と私は目を見張った。
「ですからこれで、安心してハルカさんと交際できますわ。もし、許していただけるのなら、ですが……」
アンネの語尾が小さくなる。私は、順に二人の手を取った。
「もちろんです。この世界でお友達ができるなんて、こんな嬉しいことはありませんもの。しかも、大好きな爪の話ができるなんて」
二人が、ぱあっと顔を輝かせる。
「ありがとうございます!」
「どうぞ、部屋へ入って……。あ、メルセデス様もどうぞご一緒に」
私は誘ったが、メルセデスはかぶりを振った。
「私は遠慮するわ。あまり大勢でつるむのは、好きじゃないのよね」
大勢、という人数ではないと思うのだけれど。メルセデスは、さっさと踵を返してしまった。部屋を出て行きざま、彼女は私の耳に囁いた。
「ファッショントークで息抜きなさい」
どうやら、気を利かせてくれたらしい。メルセデスの心遣いに感謝しながら、私はマリアたちを部屋へ通したのだった。