モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!
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「はい、わかりましたわ!」
「じゃあハルカ、また会いましょうね」
マリアとアンネは、手短に挨拶して部屋を飛び出して行った。二人きりになると、メルセデスは深刻に私を見すえた。
「正確に説明すると、イルディリアへ攻め込んだのは、ロスキラ内の一部勢力に過ぎません。今回の結婚、及び同盟にしつこく反対していた、イルディリアを憎む一派の仕業です。そもそも王女誘拐自体、彼らの犯行だったのです。戦いの口実とするためのね」
何と、と私はあっけにとられた。そして、とメルセデスが、声を落とす。
「ベネディクト殿下は、それらの一派へと寝返りました。実は以前から、彼らと通じておられたのです」
「――何ですって!?」
私は、耳を疑った。
「今回ベネディクト殿下は、王女捜索のためロスキラへ出発したと見せかけて、途中で彼らと合流したのです。ご自身の支配下にある軍を指揮して、王都を制圧しようとしておられます。目的は、王位。殿下は、国王陛下・王太子殿下を廃し、この混乱に乗じて、ご自身が王位に即かれるおつもりなのです!」
メルセデスの瞳は、怒りに燃えている。私は、呆然と聞いていた。
「ベネディクト殿下は、元々軍を統括されているお方。この戦争は、かなりの規模になることが予想されます。そこで、グレゴールからの伝言です。王都に留まるのは危険なので、ハルカには、領内の別邸に移るようにと」
身を潜めろ、ということか。私は、慌てて支度をしようとワードローブを開いた。そこへ、ヘルマンが駆け付けた。
「メルセデス様! あなた様も、早くお支度なさいませ」
ところがメルセデスは、かぶりを振るではないか。
「私は、こちらに残ります」
「なぜ!?」
私とヘルマンは、同時に大声を上げていた。ヘルマンが、血相を変える。
「グレゴール様は、メルセデス様、ハルカ様のお二人を別邸に匿うようにとのご指示です。このハイネマン邸は、家令たる私が責任を持って……」
「私は、ハイネマン家の長女です」
メルセデスは、凜とした声で言い放った。
「当主グレゴール不在の今、このハイネマン邸を守るのは、私の役目です」
ヘルマンは絶句したものの、ややあって頷いた。
「そこまで仰るのならば……。私も家令として、ここを離れるわけには参りません。ハルカ様には、警護役を十分にお付けしましょう」
「はい。私のことなら、お構いなく。……メルセデス様、お気を付けてくださいね」
私は、メルセデスの目を見て告げた。侍女のハイジが駆け付け、旅支度を手伝ってくれる。こうして約一時間後、私はハイジや従僕らと共に、ハイネマン邸を後にしたのだった。
それから五日間、私はひたすら馬車に揺られ続けた。同行した従僕たちの話によると、裕福なハイネマン家は、所有する領地も広大なのだという。グレゴールが指定したのは、その中でも最も王都から遠い、辺鄙な地域だった。安全を考えてのことだろう。
ようやく、ハイネマン家の別邸が近付いて来る。私は馬車の窓から、周辺の風景を見回した。辺り一面、畑が広がり、農民らが額に汗して働いている。遠くには、澄んだ小川も見えた。別荘に避暑に訪れたみたいだが、もちろんそんなのんきな気分にはなれない。
(グレゴール様、大丈夫かな……)
私は、グレゴールの顔を思い浮かべた。いくら有能と言っても、彼は文官だ。この戦いを、無事に生き延びられるだろうか。
(もし、ベネディクト殿下側に捕まって、ひどい目に遭わされたりしたら……)
一瞬よぎりかけた不安を、私は慌てて否定した。
(不吉なこと考えてどうするの。きっとご無事よ。彼、割と鍛えてるみたいだし……)
一緒に踊った時に触れ合った胸の厚さが、思い出される。そんな不謹慎な自分に、私は赤面した。
「じゃあハルカ、また会いましょうね」
マリアとアンネは、手短に挨拶して部屋を飛び出して行った。二人きりになると、メルセデスは深刻に私を見すえた。
「正確に説明すると、イルディリアへ攻め込んだのは、ロスキラ内の一部勢力に過ぎません。今回の結婚、及び同盟にしつこく反対していた、イルディリアを憎む一派の仕業です。そもそも王女誘拐自体、彼らの犯行だったのです。戦いの口実とするためのね」
何と、と私はあっけにとられた。そして、とメルセデスが、声を落とす。
「ベネディクト殿下は、それらの一派へと寝返りました。実は以前から、彼らと通じておられたのです」
「――何ですって!?」
私は、耳を疑った。
「今回ベネディクト殿下は、王女捜索のためロスキラへ出発したと見せかけて、途中で彼らと合流したのです。ご自身の支配下にある軍を指揮して、王都を制圧しようとしておられます。目的は、王位。殿下は、国王陛下・王太子殿下を廃し、この混乱に乗じて、ご自身が王位に即かれるおつもりなのです!」
メルセデスの瞳は、怒りに燃えている。私は、呆然と聞いていた。
「ベネディクト殿下は、元々軍を統括されているお方。この戦争は、かなりの規模になることが予想されます。そこで、グレゴールからの伝言です。王都に留まるのは危険なので、ハルカには、領内の別邸に移るようにと」
身を潜めろ、ということか。私は、慌てて支度をしようとワードローブを開いた。そこへ、ヘルマンが駆け付けた。
「メルセデス様! あなた様も、早くお支度なさいませ」
ところがメルセデスは、かぶりを振るではないか。
「私は、こちらに残ります」
「なぜ!?」
私とヘルマンは、同時に大声を上げていた。ヘルマンが、血相を変える。
「グレゴール様は、メルセデス様、ハルカ様のお二人を別邸に匿うようにとのご指示です。このハイネマン邸は、家令たる私が責任を持って……」
「私は、ハイネマン家の長女です」
メルセデスは、凜とした声で言い放った。
「当主グレゴール不在の今、このハイネマン邸を守るのは、私の役目です」
ヘルマンは絶句したものの、ややあって頷いた。
「そこまで仰るのならば……。私も家令として、ここを離れるわけには参りません。ハルカ様には、警護役を十分にお付けしましょう」
「はい。私のことなら、お構いなく。……メルセデス様、お気を付けてくださいね」
私は、メルセデスの目を見て告げた。侍女のハイジが駆け付け、旅支度を手伝ってくれる。こうして約一時間後、私はハイジや従僕らと共に、ハイネマン邸を後にしたのだった。
それから五日間、私はひたすら馬車に揺られ続けた。同行した従僕たちの話によると、裕福なハイネマン家は、所有する領地も広大なのだという。グレゴールが指定したのは、その中でも最も王都から遠い、辺鄙な地域だった。安全を考えてのことだろう。
ようやく、ハイネマン家の別邸が近付いて来る。私は馬車の窓から、周辺の風景を見回した。辺り一面、畑が広がり、農民らが額に汗して働いている。遠くには、澄んだ小川も見えた。別荘に避暑に訪れたみたいだが、もちろんそんなのんきな気分にはなれない。
(グレゴール様、大丈夫かな……)
私は、グレゴールの顔を思い浮かべた。いくら有能と言っても、彼は文官だ。この戦いを、無事に生き延びられるだろうか。
(もし、ベネディクト殿下側に捕まって、ひどい目に遭わされたりしたら……)
一瞬よぎりかけた不安を、私は慌てて否定した。
(不吉なこと考えてどうするの。きっとご無事よ。彼、割と鍛えてるみたいだし……)
一緒に踊った時に触れ合った胸の厚さが、思い出される。そんな不謹慎な自分に、私は赤面した。