モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!
3
「ハルカ様、どうかなさいましたか?」
付き添いのハイジは、そんな私を妙に思ったらしい。顔をのぞき込んできた。
「あ、ううん! あそこでは何を作ってるのかなって、思っていたの」
広がる畑を指さして、とっさに誤魔化す。するとハイジからは、意外な答が返って来た。
「ああ、あれでございますか。生姜を作っているのです」
「へえ、領内でも獲れたのね」
イルディリア王国は気候が温暖なため、一部で生姜の栽培を行っている、と家庭教師からも習ったが。ハイネマン領でも作っていたとは、灯台もと暗しだった。それで紅生姜を作ろうとした際、簡単に手に入ったのだな、と私は納得した。
「領主様?」
「いらっしゃったのですか?」
そこへ、畑仕事をしていた領民らが、わらわらと押し寄せて来た。御者は馬車を停めると、いえいえとかぶりを振った。
「では、ヘルマン様がいらしたので?」
「違いますよ。本日は、視察ではありません。ハイネマン邸のお客人をお連れしただけで……」
ちょうどその時、窓越しに、領民たちと目が合った。そのとたん、彼らは目を輝かせた。
「こちらのご令嬢ですか? もしや、領主様のご婚約者でいらっしゃいますか?」
「なるほど、それで領地を見に来られたのですか!」
何やら誤解したらしい領民たちは、一気に盛り上がっている。私は面食らった。御者が、慌てて説明する。
「いえ、この方は、事情あってハイネマン邸でお世話しているご令嬢です。ご婚約者ではありません」
それを聞いた領民らは、しゅんとうなだれた。
「何だ。お綺麗な女性ですし、てっきりそうかと……」
「領主様には、まだそのようなお話は無いのですか? 素敵な奥方を娶られれば、俺たちも安心ですのに」
領民たちの想像通りでないことは残念だけれど、私は少し嬉しくなった。グレゴールが彼らに好かれていることが、感じ取れたからだ。
(人望、あるんだ……)
そこで私は、ふと思いついた。せっかく、機会あってハイネマン領へ来たのだ。ここにいる間、ただぼんやり過ごすのではなく、領民たちの助けになるようなことをしようか。
この戦争の後、一体どういう状況になるのか、皆目見当もつかない。もしかしたら、元の世界へ帰らざるを得なくなるかもしれない。それでも、いやそれならばなおさら、私はグレゴールに恩返しがしたいと考えたのである。
翌朝、私は早速、領内を見て回りたいと従僕たちに相談してみた。役に立ちたいとは言っても、実際の彼らの状況を観察しないことには、方法を思いつきそうになかったからだ。
「王都からは遠く離れているし、危険なことは無いでしょう? 領民の皆様のお邪魔はしませんから」
「まあ、そうですね。では、しっかり警備いたしましょう」
従僕らは、案外あっさりと承諾してくれた。ハイジに頼んで、比較的動きやすいドレスを着せてもらう。彼女は、ショールも出してきた。
「この地域は、比較的気温が低めなんですよ。温かくなさった方がいいですわ」
「そうなの? イルディリア王国って、どこも温暖なのかと思っていたわ」
「山が近いせいですかね。ハルカ様が体調を崩すことがないようにと、旦那様からご指示があったそうです」
(そんな細かいことまで……?)
グレゴールの思いやりが、嬉しくなる。私は、言われた通りにしっかり防寒すると、屋敷を出た。
取りあえずは、馬車であちこち回ってみることにする。昨日は、ただぼんやり景色を眺めていただけだが、今日の私は、土地や人の様子を注意深く観察した。
のどかな風景は、昨日見たそれと何ら変わりは無い。だが気が付いたのは、領民たちの表情が穏やかだということだった。きつそうな農作業をしている人たちですら、笑顔を浮かべている。王都の貴族らの方が、ピリピリしてよほど不幸せそうだ、と私は密かに思った。
ちょうど、昨日の生姜畑の付近にさしかかる。休憩時間らしく、数人の農民らが談笑していた。私は、停めるよう御者に指示すると、馬車を降りた。確かに、風が少々肌寒い。私はしっかりとショールの前をかき合わせると、彼らに近付いて行った。
「こんにちは、お疲れ様です」
付き添いのハイジは、そんな私を妙に思ったらしい。顔をのぞき込んできた。
「あ、ううん! あそこでは何を作ってるのかなって、思っていたの」
広がる畑を指さして、とっさに誤魔化す。するとハイジからは、意外な答が返って来た。
「ああ、あれでございますか。生姜を作っているのです」
「へえ、領内でも獲れたのね」
イルディリア王国は気候が温暖なため、一部で生姜の栽培を行っている、と家庭教師からも習ったが。ハイネマン領でも作っていたとは、灯台もと暗しだった。それで紅生姜を作ろうとした際、簡単に手に入ったのだな、と私は納得した。
「領主様?」
「いらっしゃったのですか?」
そこへ、畑仕事をしていた領民らが、わらわらと押し寄せて来た。御者は馬車を停めると、いえいえとかぶりを振った。
「では、ヘルマン様がいらしたので?」
「違いますよ。本日は、視察ではありません。ハイネマン邸のお客人をお連れしただけで……」
ちょうどその時、窓越しに、領民たちと目が合った。そのとたん、彼らは目を輝かせた。
「こちらのご令嬢ですか? もしや、領主様のご婚約者でいらっしゃいますか?」
「なるほど、それで領地を見に来られたのですか!」
何やら誤解したらしい領民たちは、一気に盛り上がっている。私は面食らった。御者が、慌てて説明する。
「いえ、この方は、事情あってハイネマン邸でお世話しているご令嬢です。ご婚約者ではありません」
それを聞いた領民らは、しゅんとうなだれた。
「何だ。お綺麗な女性ですし、てっきりそうかと……」
「領主様には、まだそのようなお話は無いのですか? 素敵な奥方を娶られれば、俺たちも安心ですのに」
領民たちの想像通りでないことは残念だけれど、私は少し嬉しくなった。グレゴールが彼らに好かれていることが、感じ取れたからだ。
(人望、あるんだ……)
そこで私は、ふと思いついた。せっかく、機会あってハイネマン領へ来たのだ。ここにいる間、ただぼんやり過ごすのではなく、領民たちの助けになるようなことをしようか。
この戦争の後、一体どういう状況になるのか、皆目見当もつかない。もしかしたら、元の世界へ帰らざるを得なくなるかもしれない。それでも、いやそれならばなおさら、私はグレゴールに恩返しがしたいと考えたのである。
翌朝、私は早速、領内を見て回りたいと従僕たちに相談してみた。役に立ちたいとは言っても、実際の彼らの状況を観察しないことには、方法を思いつきそうになかったからだ。
「王都からは遠く離れているし、危険なことは無いでしょう? 領民の皆様のお邪魔はしませんから」
「まあ、そうですね。では、しっかり警備いたしましょう」
従僕らは、案外あっさりと承諾してくれた。ハイジに頼んで、比較的動きやすいドレスを着せてもらう。彼女は、ショールも出してきた。
「この地域は、比較的気温が低めなんですよ。温かくなさった方がいいですわ」
「そうなの? イルディリア王国って、どこも温暖なのかと思っていたわ」
「山が近いせいですかね。ハルカ様が体調を崩すことがないようにと、旦那様からご指示があったそうです」
(そんな細かいことまで……?)
グレゴールの思いやりが、嬉しくなる。私は、言われた通りにしっかり防寒すると、屋敷を出た。
取りあえずは、馬車であちこち回ってみることにする。昨日は、ただぼんやり景色を眺めていただけだが、今日の私は、土地や人の様子を注意深く観察した。
のどかな風景は、昨日見たそれと何ら変わりは無い。だが気が付いたのは、領民たちの表情が穏やかだということだった。きつそうな農作業をしている人たちですら、笑顔を浮かべている。王都の貴族らの方が、ピリピリしてよほど不幸せそうだ、と私は密かに思った。
ちょうど、昨日の生姜畑の付近にさしかかる。休憩時間らしく、数人の農民らが談笑していた。私は、停めるよう御者に指示すると、馬車を降りた。確かに、風が少々肌寒い。私はしっかりとショールの前をかき合わせると、彼らに近付いて行った。
「こんにちは、お疲れ様です」