モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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「封筒は、昔あの家を訪れた時に、くすねたのよ。筆跡は、彼女が昔うちの兄に書いた手紙を、真似たの。ラブレターへの遠回しな断りだったのだけれど、うちの馬鹿兄は、その婉曲な表現を勘違いしたらしくてね。後生大事に、保管していたってわけ」

 そういえばそんな話をメルセデスから聞いたな、と私は思い出した。ようやく、違和感の謎も解ける。自分で書いたから、無意識のプライドで、自分の名前を様付けしたのだろう。

「もしかして、あの手紙の内容って……」

「全部、嘘よ」

 カロリーネは、けろりと答えた。

「戦局も、真逆。父は粘っているけれど、もうダメね。イルディリアの勝利は見えているわ。投獄されるのは、父の方でしょう」

「では、グレゴール様はご無事なのですね!?」

 他人事のように語るカロリーネを、私は遮った。クスッと、彼女が笑う。

「そんなに、グレゴールが心配? ……ああそうよね、だから危険を冒して、王都へ飛んで来たのよね。でも、残念だこと。彼はあなたのことなんて、何とも思っちゃいないわよ。その証拠が、これ」

カロリーネは、つかつかと部屋の隅へ歩み寄ると、置いてあった巾着袋の中から、一冊の本を取り出した。目を凝らして、私はハッとした。それは、私がグレゴールの書斎で見つけた、臙脂色の本だったのだ。異世界から来た人間を、元に戻す方法が書いてある……。

「なぜ、あなたがそれを……」

「グレゴールがくれたに決まってるじゃない」

 カロリーネが、嘲るように笑う。甲高い声が、狭い地下室内に響きわたった。

「これを私に託したということは、好きにしろということよね? つまりグレゴールは、あなたが元の世界に帰っても、構わないってことよ」

 愕然とした。帰る方法をグレゴールが内緒にしていたと知った時も、腹が立ったけれど、今のショックは、それとは比較にならなかった。

(グレゴール様は、私が帰ろうがどうしようが、どうでもいいの……?)
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