モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

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 それも、あろうことかカロリーネにあの本を託すなんて。一方カロリーネは、巾着袋の中から、いそいそと何やら取り出している。

「ちょっ……、何を!?」

「何って、儀式を始めるのよ。厄介なものねえ。集めるのに、苦労したわ」

 カロリーネは、鏡にロウソク、宝石などを、次々と取り出しては広げている。わけのわからない石や、動物の死骸のようなものまであった。これらは全て、儀式に用いるというのだろうか。 

「よし、準備は万端……」 

本を開くカロリーネに、私は、必死にすがった。

「待ってください、カロリーネ様! あなたはさっき、グレゴール様は私のことを何とも思っていない、と仰いましたよね? だったらどうして、ここまでして私を追い出そうとするんですか。私のことなんて、放っておけばいいじゃないですか!」

「だって、嫌いなんだもの、あなたが」

 カロリーネは、本から目を上げると、私を見すえて言い放った。

「私、あなたが大嫌い。素直に自然に振る舞って、それでも男の人に好かれて。兄も、クリスティアンも……。私なんか、必死で自分を取りつくろってるっていうのに!」

 カロリーネの口調は、未だかつて聞いたことがないほど激しかった。

「私が、どれほど努力してきたと思っているの! 王弟殿下のご令嬢は、さぞや高慢ちきなんだろうって勝手に噂されて。それを払拭するために、気さくな女性を演じて。……もう、いい加減疲れたのよ!」

「……じゃあ、あなたも自然に振る舞えばいいじゃないですか」

 カロリーネが、目を見張る。私は、自分でも驚くほど冷静になっていくのがわかった。

「私も昔は、自分を偽っていました。男性に好かれるために、ずっと演技をしていました。でもこのイルディリア王国へ来て、その必要が無いってわかったんです。あなただって、素の自分を出したら……」

「うるさいわね! 何も知らないくせに!」

 とたんに、脇腹に衝撃が走った。カロリーネが、力任せに蹴飛ばしたのだ。痛みに耐えながらも、私は言い募った。

「あなただって、私のことなんか知らないじゃないですか。私だって、今に至るまでに、辛い経験をしました。人に好かれるのって、難しいこと……」

「この……!」

 カロリーネが、本を投げ捨て、私につかみかかろうとする。だがその時、外で荒々しい靴音が響いた。程なくして、地下室の扉が開く。

(誰……?)

 助けが来たかという私の淡い期待は、無残にも打ち砕かれた。軍服姿で入って来たのは、エマヌエルだったのだ。
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