モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

7

 反射的に目を閉じた、その時だった。

「ぎゃあっ」

 突如、壮絶なわめき声が聞こえた。恐る恐る目を開けて、私は仰天した。いるはずの無いウォルターが、そこにいたのだ。鋭い歯を剥き出して、エマヌエルの脚に噛みついている。

(どこから入ったの……?)

 私は、きょろきょろと辺りを見回した。扉はカロリーネが閉めて行ったままだし、窓も無いというのに。

「放さないか! この犬ころめが!」

 エマヌエルはウォルターを引っぺがそうと暴れているが、ウォルターは彼の脚をがっちりとくわえ込んで、放そうとしない。

「ガウウウウウ!」

 威嚇するように、ウォルターがうなる。エマヌエルの脚からはおびただしい量の血が流れ、彼は悲鳴を上げた。

「ウォルター! もうその辺に……」

 私は、思わず声をかけていた。

(あ、でも私の言葉では通じないんだっけ……?)

 取りあえず『待て』の仕草で手を伸ばしてみる。するとウォルターは、不意に動きを止めた。ワン、と一声鳴くと、鎖が巻かれた私の足首にすり寄る。

 次の瞬間、私は目を疑った。ぼわっと白い光が発生したかと思うと、鎖は粉々に砕け散ったのだ。

(これが、聖獣の力……?)

 その時、外で女性の悲鳴が聞こえた。同時に、ドタバタという大勢の靴音が聞こえる。それは、あっという間に近付いて来た。

 バンと、地下室の扉が開く。そこには、軍服姿の男たちが勢ぞろいしていた。私は、ぎょっとした。

(軍の人……?) 

 つまりは、ベネディクトやエマヌエルの仲間か。エマヌエルもそう考えたらしく、彼らに向かってわめいた。

「おい、この犬をどうにかしろ!」

「それはできかねますな」

 軍人たちの背後から響いた声に、私はドキリとした。

(グレゴール……?)

 そこへ白い影が、スッと軍人たちの前に躍り出た。セシリアだった。そして、まるでセシリアに誘導されるように、グレゴールがゆっくりと姿を現す。彼は、エマヌエルを見すえて言い放った。

「エマヌエル様。お父上・ベネディクト殿下は敗北を認められました。彼は、ロスキラ軍と共にすでに投獄されております」

「父上が……? というかお前ら、何をぼんやりしている。国王一派のグレゴールが、ここにいるんだぞ。殺らないか!」

 エマヌエルが、軍人らにわめく。グレゴールは、薄く微笑した。

「まだお気付きではありませんか? ここに、あなたの味方はおりませんぞ。軍部はとっくに、国王陛下側に寝返っております」
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