モテ基準真逆の異世界に来ました~あざと可愛さは通用しないらしいので、イケメン宰相様と恋のレッスンに励みます!

3

広大なハイネマン領内を巡る旅は、とても楽しかった。行く先々で、領民らは私たちを歓迎してくれた。

 私は各地域で、ノートにしたためてきたレシピを紹介し、簡単な物はその場で作ってあげた。皆、たいそう興味を持ってくれた。

「妻のハルカは、領内の活性化に、たいそう意欲を持ってくれている。俺の代わりに視察に来ることもあると思うが、その節は是非、よろしく頼むよ」

 グレゴールは、何かにつけては領民らにそう念押しした。するととある領民が、こんなことを言い出した。

「馬車で回られるのでは、ずいぶんと時間もかかるでしょう。奥方様は、馬には乗られないので?」

 私は、ぎょっとしてグレゴールを見た。彼が囁く。

「安心しろ。乗馬をたしなむ貴族の娘もいるが、全員ではない」

 とはいえ、馬には乗れた方がいいだろう。広い領内を回るのに、効率がいいのは確かだ。私は、勇気を出して宣言した。

「あいにく経験はございませんが、是非練習してみます」

「頼もしい奥方様だ」

 領民たちは好意的な眼差しを向けたが、グレゴールは目を剥いた。

「おい、ハルカ! お前、動物は苦手だろうが」

 小声で囁く彼に、私も囁き返した。

「セシリアとウォルターと接するうち、大分慣れましたし。それに、何事もやってみなければと思いますから」

「相変わらず努力家だな。ま、そこに惚れたんだが」

 しれっとそんなことを言うと、グレゴールは付近で草を食んでいた馬を指した。

「じゃあ、早速チャレンジするか?」

 グレゴールの言葉に反応したのか、馬がこちらを向く。巨大な図体をした、黒い馬だった。やんちゃそうな雰囲気で、どうやら牡馬らしい。

「えっと……」 

 思わず固まる私を見て、グレゴールはぷっと吹き出した。

「冗談だ。いきなりあれに乗れとは言わない」

「脅かさないでくださいよ。大体、牡馬には近付かせないとか仰ってませんでしたっけ?」

「くだらんことを記憶するな」

 グレゴールは、顔をしかめた。

「本邸に戻ったら、おとなしい馬を馬丁に見つくろわせよう。練習は、少しずつでいい」

「はーい……」

 そんな私たちを、領民たちは微笑ましげに見守ってくれたのだった。

※この後、18禁描写が入るバージョンは、アルファポリス様、ムーンライトノベルズ様にて公開中です!
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