浮気性の公爵に「外見も内面も最悪」と離縁されましたが、隣国の王太子は見染めてくれたようです~自由気まま少々スリリングな生活を満喫中です~
「……」

 アレックスったら、主人公である自分自身にかかっている期待に言葉もないみたい。

「どうせなら、もっと平穏で平和的な筋書きがいいんだけど……」
「なんですって?」

 アレックスがつぶやいた。

「レディ。悪いけど、こんなマズいものに銅貨は払えないっていうことだよ」

 だけど、彼のそのつぶやきは向こうの方のテーブルでのやり取りの声にかき消されてしまった。

 その怒鳴り声の方に視線を向けると、砂塵にまみれた汚らしいフード付きのマントを羽織った背の高い男と、この食堂の店員が言い争っている。

「へー。食い逃げしようなんて、いまどきめずらしいな」

 アニバルが面白そうに言った。

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