キスだけでは終われない
初めてのことばかりに戸惑う私に優しくしてくれた。不思議な安心感があり、彼に求められるまま最後まで許してしまった。
シンガポールで彼に出会うまでは男性が苦手で、会話もろくにできなかったとは思えないくらい、自然に会話も出来た。
きっと彼以上の人とはなかなか出会えないだろうな…と思った。
「…きっとその気になったら探せるんじゃない?本当にいいの?」
「いいよ。すごくモテそうな人だったから、たぶんもう私のことなんて忘れてるよ」
家族以外の誰かに必要とされたことが嬉しかったことを伝え、それが私の中でこれから生きていく上で自信になったことは何物にも替えがたい経験だった。
新たに決意できたことの方が気持ちとしては大きく占めていたので、彩未ちゃんの目を見てしっかりと宣言できた。
「うん。大丈夫。後悔がない訳ではないけど、私、変われた気がするの。ううん…変わるの。もっといろんなことにチャレンジしてみようかなって考えられるようになれたの」
私の決意を聞き終えた彩未ちゃんは私を抱きしめて背中をさすってくれた。
「その人のこと一時でも想って、それで経験したことが香苗の自信になったなら良かったと私も思うよ」
同意してもらえたことが嬉しかったのもあったのか、不思議と後悔の気持ちが小さくなり満たされた気分になっていった。