秋恋 〜愛し君へ〜
Chapter II

秋吹く風

幾度となく季節は巡る

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樹が旅立って23回目の秋が訪れた。



10月20日

「総支配人、遠矢商船の会長様からお電話が入っております」

「わかった。繋いでくれるかな」

「かしこまりました」


「お待たせいたしました、長谷川です」

「やぁ、長谷川くん、ご無沙汰して申し訳ない」

「とんでもございません。こちらこそ、なかなかご挨拶に伺えず申し訳ありません」

「早速なんじゃが、君に相談があって電話したんじゃよ」

「私にですか?」

「そうじゃよ。実は、孫が結婚することになってね」

「それはそれはおめでとうございます」

「そこでじゃ、披露宴を君のホテルでお願いしたいと考えとるんじゃが、どうかね?」

「もちろんです。当ホテルといたしましても大変有り難いお話です」

「そう言ってくれると思っておった……」

「何か気になることでもございますか?」

「んーっ、そうなんじゃ、いろいろあってな。突然で申し訳ないんじゃが、明後日の22日、何時でも構わんのだが、本社に来てもらえんだろうか」

「かしこまりました。会長、もしお許しいただけるのでしたら、一人、連れて行きたい者がいるのですが、よろしいでしょうか?」

「ん?もう一人?」

「はい、私の尊敬する同期です。披露宴に関しては、私より彼が適任だと思いますので」

「君が尊敬しとるとは、是非会ってみたいものじゃ。構わんよ」

「ありがとうございます。では、スケジュールを確認いたしまして連絡させていただきます。ご都合の悪い時間帯はございますか?」

「いいや、いつでも構わんよ」

「かしこまりました」

「じゃあ、よろしく頼んだよ」

「はい、それでは、失礼いたします」



俺は受話器を置くと、すぐに内線を繋いだ。


「はい、宴会部、野添です」

「野添、お疲れ、俺だよ」

「長谷川くん!あ、総支配人、お疲れさまです」

「やめてくれ、その呼び方」

「えーっ、いいじゃない」

「お前に言われると気持ち悪い」

「え、気持ち悪いって、そういうこと言っちゃう?恥ずかしいんでしょ」

「お前は相変わらずストレートだな」

「それが僕だもん。でもホント凄いよね。長谷川くんはここで、日高くんは大阪で、二人とも総支配人まで昇りつめるなんて、脅威のスピード出世だよ。さすが2H!」

「久しぶりに聞いたわ、それ」

「え?久しぶり?今でも言われてるよ。東の長谷川、西の日高で2H」

「は?ホントかよ」

「ホントホント。ねぇ、日高くんは元気にしてる?」

「ああ、単身赴任で頑張ってるよ。連休だから今日こっちに帰って来るって言ってたな」

「そうなんだ。元気そうで良かった」

「ところで野添、明後日時間あるか?」

「22日?」

「ああ」

「ちょっと待ってね……午後から空いてるよ」

「俺に付き合ってくれ」

「え⁉︎」

「お前、変な意味じゃないからな」

「わかってるよ。何かあるの?」

「遠矢商船の会長知ってるだろ?」

「もちろん」

「お孫さんの披露宴をここでやりたいそうだ」

「え⁉︎それホント⁉︎」

「ああ」

「あの遠矢商船だよ!超超超大企業だよ!それ、凄いことじゃない!」

「そうだな、俺も驚いてる。でもなんかありそうなんだよな」

「なんか?」

「そこらへんも含めて明後日訊いてみようと思う。本社に呼ばれたんだよ。だからお前も一緒に来い」

「本社⁉︎あの大手町にある本社⁉︎」

「ああ」

「うわぁ、緊張するなぁ」

「時間決まったら連絡するわ」

「うん、わかった。でもねぇ…」

「ん?」

「僕、長谷川くんと一緒に行動したくないんだよね」

「は?」

「だってさ、絶対僕の方が年上に見られるもん。絶対僕の方が上司だって思われる」

「なんだそれ」

「長谷川くん、30代にしか見えないもん。お腹だって出てないし、髪の毛も薄くなってないし」

「それはな、努力だ」

「え?努力してんの?」

「してるしてる」

「何してんの?教えてよ」

「ラジオ体操」

「えーっ、絶対嘘だ」

「はいはい、じゃあな」

「ちょ、ちょ、ちょっと待っ」

俺は電話を切った。

そうだ。俺は努力している。いつか樹のいる世界にいった時、気づいてもらえないのは辛すぎるからな…



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