天秤は愛に傾く ~牙を隠した弁護士は不器用女子を甘やかしたい~
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素子と誠は食事をして以降、ずっと会っていない。
会社で時々すれ違い簡単な挨拶をするだけ。
唯一、毎日のやりとりが、素子には今の誠との関係が嘘では無いことを実感させた。
きっと彼は思いもしないだろう、私が彼と会話した履歴の画面を時折眺めていることなど。
しかしそのおかげで馬場の相変わらずのパワハラからも、周囲からの無視にも耐えられた。
私は一人では無い。
それがどれだけ力になったか。
だが、素子に今までに無い事件が起きてしまった。
その場にいた総務部の者達や他の部の社員達も驚いたが馬場が勝手な言い分をわめき、脅しに近い言葉を言われてみな黙るしか無かった。
誠はやはり馬場から何かされているのでは無いかというのが一番気がかりだった。
情報を集めるためにも出来れば素子から報告が欲しい。
それとなく馬場とのことを心配すれば、素子は大丈夫ですと返すだけ。
誠は本社の仕事含め毎日忙しく、ようやく旭株式会社に来た日も法務チームの部屋に缶詰になる。
よって素子のフロアでどんな目に遭っているか、以前より情報を耳にすることすら出来なくなっていた。
昨日誠が連絡したのに素子からなかなか返事が無いので心配していれば、熱を出して寝ていて見られなかった、すみませんが数日休みますという返事が来た。
一人暮らしで大丈夫だろうか。
そんな心配をすれば、病院にも行ったので寝ていれば大丈夫という。
今朝起きてすぐにメッセージを送ったが始業前にも既読にならない。
総務部に行こうかと心配しながらも、追い込みの仕事をする為に誠は諦めざるを得なかった。
法務チームには誠より年上の三十代男性社員が二名いる。
終業後になっても素子から返信が無いことに誠は心配しつつも、元々約束していた二人と飲み会に行く。
今では飲みに行く関係だが、最初二人から警戒されていることに気付いていた誠は、ランチを時々一緒にとったりして距離を縮めてきた。
仕事後に飲みに行くこともあったが、二人は覚えることに必死で結局仕事の話になる。
二人から会社の噂話を聞けるようになったのは、三ヶ月以上経ってからだった。
今日は早めに終わって時間もあるので、わざと会社とは離れた新宿まで出て居酒屋にした。
酒も良い具合に進み、社員の一人が愚痴をこぼす。