星空なら、うまく話せるのに

 後片付けをして店を出た頃、しとしとと冷たい雨が降っていた。

「……」

 冷たい雨の6月。おばあちゃんが亡くなった月。

 ふと、そう思った時、おばあちゃんからもらったあの本を店に忘れてきてしまったことを思い出した。駅までもう少しというところで、私はどうしても気になって店に戻ることにした。

 夜遅くなったとはいえ観光立地、雨の中でも人出が多い大通り。

 そこにサンタさんの姿を見つけた。小雨に変わった雨の中を、同じ傘に入った女性。腕を組む笑顔の二人。

 とっさに傘で顔を隠した。

 今まで聴いたこともない重い胸の音。経験したことのない動揺が私を襲っていた。

 自分の気持ちが解らない。どうして、こんな気持ちになるのか。

 元カレの時でさえ感じたことのない胸の苦しさに、冷静になれない自分がいた。



 足が震える。夢中で駆け上がった階段。

 暗くなった店に飛び込むと、私は崩れるように泣いた。



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