夫婦間不純ルール
奥野君の言葉に私は小さく頷いて、マスターがさりげなく運んでくれていたコーヒーに口をつける。そう、あの日に出されたこの味をもう一度だけ堪能したくて。
爽やかなのに独特の苦みを私の中にしっかりと取り入れて、そして気持ちを切り替えた。
「それで、協力してもらうことに対してのお礼についてなんだけど……」
こんな面倒なことを頼むのだ、最初からタダでなんて考えてない。私は持っていたハンドバックの中を探って、用意していた封筒を取り出そうとしたのだが。
急に席を立った奥野君が、その手を伸ばして私の動きを強引に止めてしまう。
「そんなの、いらない。それを受け取ったら……すべてが終わった時、雫先輩は俺に会うのを止めてしまうでしょう?」
「どうして、それを……」
奥野君の言う通りだった、私は封筒の中身を彼が受け取ったらそれで全部終わりにするつもりで。自分勝手だと思われるかもしれないが、そうする事が一番良いと思ったのだ。
本当は奥野君も妻である玲香さんを愛してるはず、このまま私と会っていれば変な誤解を生む可能性も無いとは言い切れない。それならハッキリとした形でお礼をした後、会うのを止めるべきだと。
「嫌だよ、俺は。雫先輩と会えなくなるのだけは、絶対に嫌だ」
「奥野君……」
こうして想われるというのは決して不快ではない。だけど彼にはもう一番の相手がいるのだから、私はいつまでもこうしていてはいけないと思う。だけど……