夫婦間不純ルール
「こんなお礼はいらない。そんな紙切れより今の俺が一番欲しいものが何か、雫先輩なら分かるでしょう?」
「……」
私の心まで覗き込むようなその視線に、言葉が出なくなる。私は恋愛経験も男性経験も人よりずっと少ないため、自分で考えた答えが正解なのかすら分からなくて。
いつの間にか小さく手が震えていたが、その上に重ねた手を奥野君はどかそうとしない。それが……本当に貴方が望んでいることなの?
「今すぐじゃない、雫先輩が自由の身になってからでいいんです。俺はどれだけでも待てるから」
「でも……」
真面目な性格の私が夫のいる身で他の男性と関係を持てないことくらい分かってる、というように奥野君はそのまま言葉を続ける。
その通りだけど、それでもそんな事を約束出来るかと言われたら正直なところ自信がない。だって私にとって奥野君は……大事な後輩でもあるのだから。
「雫先輩、一度でいいんです。後輩ではなく一人の男として、奥野 雅貴を見てもらえませんか?」
「どうして、そこまでするの? 私は決して良い先輩ではなかったのに」
部活動では私は副部長という立場もあり、それなりに後輩にも厳しくしてきた。何名かの男子部員から「アイツは可愛くない」と言われてたのも、本当は気付いていた。なのに、どうして?