夫婦間不純ルール

「カンパーイ!」

 ビールのジョッキがぶつかりカチンカチンと音がする、久しぶりに聞くそれに少しテンションが上がる。
 当日まで迷いながらも結局参加することを選んだ親睦会だったが、やっぱり来て良かったと思う。気を使って私の横に座ってくれている久世(くぜ)さんの存在も有難い。

「ところで麻実(あさみ)ちゃんはお酒強いの? あまり得意じゃなければ私に任せてくれてもいいんだからね?」
「ありがとうございます、久世さん。もしかしたら……お願いするかもしれません」
「いいわよぉ、そうやって仕事の時も遠慮なく頼ってくれると嬉しいんだけど」

 そう言って笑う久世さんにつられて私も頬が緩む。仕事の時、いつも自分のことは自分でやらなければと気を張っている事を久世さんには気付かれていたようだ。
 仕事の話はしても休憩時間などの世間話には積極的に参加しなかった私を、彼女はいつも気にかけてくれていた。それが冗談なのか本気なのかを私が分かっていなかっただけで。

「あー、久世さんばかり麻実さんと話をしててズルいですよ! 僕だって麻実さんに色々聞きたいの我慢してたのに」
「はいはい、いいから。秋葉(あきば)君は先生たちのお酌をしながら、ためになる長ーい話でも聞いてなさいね」
「ヒドい!」

 久世さんにあしらわれ、恨みが増しそうな視線を向けながらも新人医師の秋葉君はまたベテラン医師のお酌をしに戻っていく。そんな二人のやり取りを微笑ましく感じながらも、飲み慣れないビールのジョッキを傾ける。
 苦味を味わい、喉が熱くなるのを感じる。普段、岳紘(たけひろ)さんが私に勧めてくるのはワインが多いためか久しぶりのビールはより美味しく感じられた。


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