夫婦間不純ルール
「美味しそうに飲むのね、意外とお酒に強いとか?」
「あ、いえ……久しぶりだったので、つい」
ニコニコと笑顔で私を見る久世さん、私はそんな彼女の視線に恥ずかしさを感じながらも決して悪い気はしていない。周りの人たちもいつの間にかジョッキを空けて追加注文したり、テーブルの料理をつまみながら楽しそうに談笑している。
学生時代にも何度かこうやってサークル仲間と飲み会をしたことはあるけれど、この雰囲気はやっぱり嫌いじゃない。アルコールが入った所為もあってかどこかふわふわとした気分で楽しくなってくる。
「でも飲みすぎには注意しなきゃね、旦那さんに怒られて次がなくなったら私が寂しいもの」
「……怒る、かどうかは分かりませんけどね」
「そう? その割りにはずいぶんスマホを気にしているみたいだけど。あの時も、そうだったわよね」
そう久世さんに言われて始めて気づいた、自分が何度もスマホの画面をチェックしていたということに。そして彼女の言うあの時というのが、私が唯一この職場で参加した飲み会だと言うことも。
「あの日、何度もスマホをチャックしてた貴女は途中で帰ったのよね。だから私はてっきり旦那さんが怒ったのかと思ったのよ」
「そう、だったんですか。誤解させてしまってすみません」
あの時に送られてきたメールにはたった一言だけ『いつ帰る?』と打たれていた。それを心配してくれているのだと勘違いした私が、勝手に慌てて帰ってしまっただけ。すぐに家へと帰った私に岳紘さんはいつもと変わらない態度と表情しか見せてくれなかった。
そう、私が……勝手に期待してしまっただけ。