幼馴染は、政略妻を愛したくてしょうがない
「知らないけど、とにかく引き渡したからね。 まったく、ちょっとからかっただけで面白いくらい大袈裟に反応するんだもん。既婚者に本気で手ぇ出すほど困ってないっての」

ひらひらと手を振ってそそくさと帰っていこうとするアンの背中に、低い声を投げる。

「聞き捨てならないな、アン?」

彼女はぎくりと固まって、億劫そうに振り向いた。

「ほ、ほんとに、ちょっとちょっかいかけただけだってば! 結婚してるんだし、まさかそんなに気にするとは思わないじゃないの!」

アンの言い訳に、俺は短く嘆息する。
一椛を見ると、抱きとめられたまま幸せそうに目を閉じていた。この状況で眠ったのか?

「おまえのそれは悪趣味すぎるぞ。向こうで仕事をしていた時からそうだ。兄貴と電話しているときに誤解されるような発言をしたり、日本に来たと思ったら一椛にまで…」

「sorryね! 悪かったわ、謝るからー!!一気に喋らないでよぉ」

アンのことは仕事仲間であり、妹のような存在でもある。
俺の周りをちょこまかして荒らしていく台風のような。
自称ハニートラップにだって何度遭ったことか。
おまえが俺のスパイだったら、今頃こっちで社長なんてやってないっつうの。
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