仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
私はイライラと答えた。
彼はせめてもの罪滅ぼしとでも思っているのかもしれない。本当は真面目で硬派な弁護士でいたい人が、カップル動画とまで言い出したのだ。しかし、そんなことで今回のイメージダウンがひっくり返るわけがない。

「もー、寝る。寝ます。お休みっ!」

これ以上史彰と話していると本気で喧嘩になりそうで、私は彼に背を向け、自室に引っ込んだ。

本当になんて面倒なことになったのかしら。新婚早々、夫に不倫された疑惑だなんて。恥ずかしいし、すごくマイナスイメージだ。

でも、史彰にきつく言いすぎた気もする。
全面的に非を認めて謝ってきた史彰を一方的に非難してしまった。あんなしょんぼりした顔をさせたかったのではない。
せっかく居心地よく過ごそうと決めたばかりなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
苛立ちと自己嫌悪で苦しくなりながら、私はなかなか眠れぬ夜を過ごすのだった。



翌日に週刊誌が発売され、史彰の不倫疑惑はごく一部で騒がれた。主に私のSNSや動画でだけど。

私はいつも通りの動画をあげたし、これみよがしなSNS更新はしなかった。
動画のコメントやSNSのリプライには『こんな更新してる間に浮気されてるし』『いきなりサレ妻ウケる』などという悪意たっぷりのメッセージや、『大丈夫?』『気にしちゃ駄目』『元気出して。あんな旦那捨てちゃえ』などという善意からのおせっかいメッセージも散見された。

正直に言えば、元気を出してほしいならあの件はスルーしてほしい。心配しているなら、人の目につくところで蒸し返さないで。善意だって暴力になり得るのだ。

悪意に関しては無視だ、無視。かまうとつけあがるから、私は何も言い返さない。動画に関係のないコメントなので、削除依頼はしたけれど。
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