激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 そのせいか、私が二十四歳になった今でも、いまだに心配していろいろ口を出してくる。

 恋人ができたと伝えたら、一度家に連れてきてどんな男か見定めさせろとうるさいくらい言われた。
 そのやりとりを康介にやんわりと伝えたこともある。

 だけど、結婚しようと言ってくれたのは間違いなく康介だった。
 私が勝手に話を進めたわけじゃないのに……。

「もう日菜子と別れようかなぁ」
「いいんですか? 同じ職場だから気まずいですよ?」
「いいよ。あいつどうせ契約社員だろ。部長に『使えないから更新しないでくれ』って言えばそれで切れるし」
「まぁ、契約社員なんていくらでも代わりはいますしね。それなのにまじめに残業していい子ぶってバカみたい」

 あはは、と楽し気な笑い声が聞こえた。

 仕事も恋愛も、すべてを否定された気がした。

 あまりのみじめさに、ものすごい脱力感に襲われる。
 手から力が抜け持っていた袋が指先から滑り落ちた。

 玄関の固い床にワインの瓶がぶつかり鈍い音をたてる。


 その瞬間、笑い声がやんだ。
 焦ったように体を起こす気配。せわしない衣擦れの音。そして康介の声がした。


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