激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 エレベーターで一階に下りエントランスを歩いていると、「早川さん」とうしろから声をかけられた。

 振り返ると野口さんが不機嫌そうな表情でこちらに歩いてくる。

 どうしてわざわざ私に話しかけてくるんだろう。いやな予感に背筋が冷たくなる。

「早川さん。会社の人たちを味方につけて、悲劇のヒロインぶらないでもらえます?」
「え?」

 投げかけられた言葉の意味がわからず、私は目を瞬かせる。

「どうせ被害者ぶって、みんなに私の悪口を言ったんでしょう?」
「私は悪口なんて言ってないよ」

 私と康介が別れたことをみんなが知っているのは、野口さんが自分で言いふらしたからだ。
 聡美には事情を話したけれど、ほかの人にはなにも言っていない。

「嘘つかないでよ。じゃあ、なんでみんなあんたに同情するのよ!」

 野口さんはいつものかわいらしい口調が嘘のように、私への敵意をむき出しにして叫ぶ。

 みんなが私に同情的なのは、野口さんが『早川さんから男を寝取った』と社内で自慢気に言いふらしたからだ。

 職場でそんな話をする彼女には、冷ややかな視線が向けられていた。
 完全に野口さんの自業自得だ。

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