激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 中にはアイスが添えられたティラミス。このカフェで一番人気のスイーツだ。

「あの」

 驚いて顔を上げると、その先輩はウインクして去っていく。
 その背中に向かって「ありがとうございます」とお礼を言った。

 野口さんが流した噂を耳にして、私を励ましてくれたんだろう。
 さりげない優しさに胸が温かくなる。

 考えてみれば、今日は朝から男性社員がジュースをおごってくれたり、上司が『お土産があまったから特別だよ』とおかしをくれたり。やけに優しくしてくれた。

 みんなが私を気遣ってくれたんだなと気づく。

 康介と別れたら気まずくなって働きづらくなるかもしれない、なんて思っていた自分が恥ずかしい。

「いい人ばっかりだなぁ……」

 私がつぶやくと、聡美は「ちがうよ」と首を横に振った。

「いい人ばかりなんじゃなくて、今まで日菜子がまじめに仕事をしてきたから、みんな味方になってくれたんだよ」
「そうなのかな」
「そうだよ」

 力強くうなずかれ、照れくさくて小さく笑った。




 


 その日の仕事を終え、退社しようと席を立つ。

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