激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 どうしてこんなことを言われなきゃならないんだろう……。
 悔しくて唇をかみしめたとき、低い声が響いた。

「――黙れ」

 驚いて顔を上げると広い背中があった。
 私をかばうように長身の男性が目の前に立っていた。

 それがだれかわかったとたん、驚きと安堵が胸にこみ上げる。

「亮一さん……」

 どうしてここに? 今日アメリカにたつはずなのに……。

 野口さんは突然現れた亮一さんに驚いてあとずさりをした。
 警戒するように眉をひそめこちらをうかがう。

 亮一さんはそんな野口さんに向かって淡々とした口調で話す。

「それ以上続けたら、君を侮辱罪で訴える」

 冷静な口調だからこそ、彼の言葉は重かった。
 野口さんの顔色が一気に青ざめる。

「ぶ、侮辱罪って、大げさすぎ。私は本当のことを言っただけだし……っ」
「本当のこと? かわいそうに」

 野口さんの言い訳を聞いて、亮一さんが鼻で笑った。

「こんなに敏感でかわいらしい反応をする日菜子をつまらないと思うなんて。その男がよっぽど下手だったんだろう」

 亮一さんは私の肩を抱き穏やかに微笑む。
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