激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 私は慌てて亮一さんの背中を押し、タクシーに乗るようにうながす。
 亮一さんはそんな私に苦笑いしながらこちらをふりかえった。

「待ってくれ。日本を離れる前にひとつだけわがままを言っていいか?」
「なんですか?」
「キスをしてほしい」
「な……っ」

 唐突なお願いに絶句する。

「これからアメリカにたつ夫に、キスくらいしてくれてもいいだろ?」

 当然のように言いながらも、彼の視線はちょっと意地悪な笑みをたたえていた。

 夫婦なら、別れ際のキスくらい普通なのかもしれないけど。

「あの、でも。こんなところで……?」

 たくさんの人が行きかう道端でキスをするなんて、ものすごく恥ずかしい。

 亮一さんは戸惑う私を見下ろし、「ほら、時間がない」とせかす。

 たしかに私がためらっているせいで、搭乗時間に遅れたら大変だ。
 心を決めて顔を上げる。

 長身の彼との身長差は二十センチ近くある。
 私は亮一さんのスーツのそでを掴みせいいっぱいせのびをした。
 整った顔が近づき、鼓動が速くなった。

 ぎゅっと目をつぶり、彼の頬に唇を押し当てる。
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