激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
「聡美ぃ。私がアメリカに行っても忘れないでね?」

 酔っているせいかなんだか妙に人恋しい。
 隣にいる聡美に抱き着きそんな甘えたことを言う。

「忘れるわけないでしょう。日菜子は大好きな友達なんだから」
「うれしい。私もだいすき」

 聡美の首に腕を回しぎゅっとしがみつく。

「抱き着かれるのはうれしいけど、このままじゃ動けないから」

 なだめるように背中を叩かれ、お店の前にある花壇のふちに座らされた。

「タクシーをつかまえるから、ちょっと待っててね」

 素直に「うん」とうなずき、道路へ向かう聡美を見送る。

 風が吹いて髪が揺れた。
 金曜の夜のにぎやかな喧騒が気持ちよくて目を閉じる。

 ゆらりゆらりとまどろみながら、今頃亮一さんはなにをしているだろうと遠い場所にいる彼に思いをはせる。

 いつも亮一さんは夜になると電話をくれるけれど、今日は彼からの着信はなかった。

 前もって送別会に行くと言っておいたからだろう。

 昨日、心配性の彼からどこで飲むのかたずねられこのお店を教えると、『迎えにいってあげようか』なんて冗談を言っていた。

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