激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 彰というのは私の兄だ。
 亮一さんは兄が私に対して過剰なくらい心配性なのを知っているから、気を使ってくれたんだろう。

「ごめんなさい、迷惑をかけて」
「気にしなくていい。迷惑だとは思っていないから」
「でもこんな高そうなお部屋……」

 一泊いくらするんだろう。
 この朝食も豪華だし、私に払えるんだろうかと心配になる。

 部屋を見回していると、亮一さんは私の不安を見透かすように小さく笑った。

「日菜子ちゃんに払わせるわけないだろ。俺がしたくてしたことだ」

 こんなに迷惑をかけたのに、ひと言も責めずにホテル代まで払ってくれるなんて。
 本当に亮一さんは懐が深すぎる。

「――で、彼氏に振られて仕事も辞めることになったって?」

 そうたずねられ、現実に引き戻される。私は力なくうなだれた。

「そもそも俺は日菜子ちゃんに彼氏がいたことも知らなかった。彰はなにも言ってなかったけど」
「お兄ちゃんは反対していたんです。『大事な妹と付き合っているのに挨拶にもこない男は認められない』って」
「同感だな」

 亮一さんは険しい顔でうなずく。
< 32 / 231 >

この作品をシェア

pagetop