激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 そのおかげで、張り詰めていた空気が緩む。

「あ、すみません。スマホが鳴ってるみたいなので……」

 私はほっと息を吐きながら、彼の視線から逃げるように立ち上がる。
 バッグからスマホを取り出して画面を見る。兄から着信があったようだ。

「彰から?」

 画面も見ずに言い当てるなんて、亮一さんは本当にするどすぎる。

「そうです」
「昨夜から何度か着信があったようだから、心配してるんじゃないか」

 確認するとたしかに昨日の夜から何度も着信があった。
 それから私を心配するメッセージも。

「しまった。お兄ちゃんに連絡するのを忘れてた……」

 外泊するときは必ず連絡を入れろ。
 そう兄に約束させられていた。

 私はもう二十四歳で恋人もいるんだからそんなに干渉しなくてもいいじゃない、と何度も口論になったけれど、いつも『心配なんだ』のひと言で押し切られてしまう。

 案の定画面には『どこにいるんだ』とか『何時に帰るんだ』とか『なにかあったのか』とか、心配性の兄からのメッセージが並んでいた。

「きっと今頃怒ってるだろうな……」

 ため息をついて頭を抱える。

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