激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
「そんな……」
「反対ばかりしていると、ふたりに駆け落ちされちゃうわよ。嫌われたくないなら、日菜子ちゃんの門出を祝ってあげなさいよ」
「それに、いい加減シスコンを卒業しないと早苗さんに捨てられるぞ」

 亮一さんと早苗さんからの視線を受けた兄は、「うぐ……」と口ごもる。
 ふたりの正論に返す言葉を見つけられないんだろう。

 しばらく黙り込んだあと、意を決したように顔を上げこちらを見た。

「日菜子は本当に、亮一を愛しているのか? 一生を添い遂げようと思えるくらい?」

 念を押すように問われ、胸のあたりに痛みを感じた。

 私と亮一さんの間に恋愛感情はない。
 お互いの利害のために結婚をするだけだ。
 しかも一生を添い遂げるころか、二年後には離婚する予定だ。

 こんなに心配してくれる兄を騙しているんだ……。

 罪悪感に襲われ思わず視線を落とすと、私の手が温かなぬくもりに包まれた。

 驚いて顔を上げる。
 隣に座る亮一さんの手が私の手に重なっていた。

 彼はこちらに向かって安心させるように微笑み、そしてまっすぐに兄を見つめる。

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