激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
「あ、いえ」
「ほら、行くわよ」
「待ってくれ、かわいい日菜子が……っ」

 兄は早苗さんに引きずられるようにして連れていかれた。

 ふたりきりになった私と亮一さんは、思わず顔を見合わせて苦笑いする。

「すみません。兄が」
「いや。あの重度のシスコンが急に心を入れ替えられるわけないよな」

 とはいえ、こっそり心の中で兄に感謝していた。
 あのまま兄が来なかったら、どうなっていたんだろう。

 多分亮一さんは私をからかっただけなんだろうけど……。

 ちらりと視線を彼に向けると、いつもどおりの穏やかな表情をしていた。ほっと胸をなでおろす。

「そうだ。日菜子ちゃん明日の予定は?」

 亮一さんにたずねられ「とくにないですよ」と答える。

「よかった。じゃあ、明日は俺の家に行ってから婚姻届けを出そう」
「亮一さんの家って、結婚の挨拶ですか……?」
「なにか問題があるか?」
「問題というか、心の準備が」

 ご両親はお見合いをすすめようとしていた。
 それなのに突然亮一さんがほかの女性と結婚すると言い出したら戸惑うのでは。

「顔を見せれば納得するだろうから、心配ない」
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