激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 誰のだっけ……。と首をひねったとき部屋の中から人の気配がした。

 思わず動きを止め、息をのむ。

 ギシギシとなにかがきしむ音。
 そして乱れた呼吸。
 生々しい空気を肌で感じ、背筋が凍りつく。

「あ、いい……。康介さん、すごぉい……」

 鼻にかかった甘い声を聞いて、中でなにが行われているのか悟った。
 いっきに血の気が引き、指先が冷たくなる。

「やば……。野口。お前、ほんと声でかすぎ」
「えー。ひどぉい。リサの声きらいですかぁ?」
「いや、エロくて興奮する」

 康介がそう言うと同時に、きしむ音が激しくなる。

「あ、あ、あ……っ!」

 けもののようなあえぎ声が聞こえ、耳を塞ぎたくなった。

 嘘、なにこれ……。

 私は玄関で呆然と立ち尽くす。

 康介が浮気をしている。
 しかも、相手は職場の後輩の野口さんだ。

 語尾が上がる甘えた話し方もそうだし、部長から残業を頼まれ『今日は無理です』と帰っていった彼女が、このピンクのパンプスをはいているのを見た。

 物音が止まりしばらくすると、ふたりの会話が聞こえてきた。

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