激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
「だから、俺の前でいちゃいちゃすんじゃねえ!」

 激怒する兄を見て、亮一さんは肩を揺らして笑った。







「一カ月後、本当に日菜子はアメリカに行くんだな」

 亮一さんが帰りふたりきりになってから、兄はリビングにある仏壇に向かう。
 お線香を立て手を合わせながら、ひとりごとのようにつぶやいた。

「うん」
「もう、早川日菜子じゃないんだな」

 しみじみとした口調で言われ、私も少し寂しい気持ちになる。

「結婚したけどこれからもずっと私はお兄ちゃんの妹だよ」
「そんなの、当たり前だ」
「お兄ちゃんも早く結婚しなよ。早苗さんみたいに素敵な人はほかにいないんだから」
「わかってるよ」

 兄はぶっきらぼうに言って私のほうを見た。

「日菜子、ちゃんと幸せになるんだぞ」

 まっすぐな思いを込められた言葉に胸が痛くなる。
 けれど、罪悪感を必死に押し殺してうなずいた。

「うん。亮一さんとふたりで幸せになります」

 言葉にするとさらに胸が痛んだ。

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