極甘恋愛短編集
「あんたたち、返事もできないの？」


呆れた声と共に佑美が教室に入ってきて、雰囲気がガラリと変わった。


さっきまで重苦しく感じていた空気がスッと軽くなる。


一緒に電車に乗ってきた佑美はトイレに寄っていたのだ。


「おはよ」


佑美に言われて仕方なくと言った様子だけれど、田中さんが私へ向けて小さく言った。


その言葉を聞き逃さない。


私はハッと一瞬息を飲み、それから笑顔になって「おはよう！」と、大きな声で挨拶をした。


ことの発端である田中さんが自ら私に挨拶をしたことで、田中さんの周りにいる生徒たちはバツの悪そうな顔をこちらへむけた。


「よく考えたら、平井さんは別に悪いこととかしてなかったから」


口の中でもごもごと弁解する田中さん。


しっかりとこちらを見てはいないけれど、ちゃんと私のことを気にしてくれているのが伝わってくる。


「私は大丈夫だよ。挨拶してくれてありがとう」
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