囚われのシンデレラ【完結】

 指揮者と共に舞台へと出て行くと、観客から拍手が沸き上がった。舞台中央へと進み、一礼をしてバイオリンを構える。

 目の前には、奥へと続く座席に2階席まで埋まる観客が迫る。こんなに大きなホールでたくさんの聴衆を前に立つという初めての経験に、ドレスの中の足はガクガクと震えていた。でも、どんな緊張も受けて立つ覚悟はして来たつもりだ。

その緊張さえも全部昇華させて、この会場の奥まで、私の音を響かせてみせるから――。

指揮者とアイコンタクトを取ると、演奏が始まった。

チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲。

第一バイオリンによって始まる主題に、オーケストラが合いの手を入れるように曲は進み盛り上がって行く。そしてその盛り上がりが頂点に達した時、ソロのバイオリンを迎え入れるためかのように、ふっと音が消える。

 私の最初の一音。何度も何度も試行錯誤して最高の音を模索して来た。

その答えを、ここで引き出せるように――。

弦に弓を当て、音を紡ぎあげて行く。不穏な低音からゆるやかに上昇して、憂いが優雅さに変遷する魅惑的なメロディーを奏でる。

 大学に入学してからこの日までのことが蘇る。

脱落していかないように。置いていかれないように必死だった。

不安と焦りを抱えながら、人より限られた時間の中でバイオリンに向き合って。

周囲の学生たちを見て『自分は自分だ』と無理やりに自分に言いくるめて来たけど、本当は毎日が苦しかった。

 そんな時に、西園寺さんに出会った。

 あの日、ホテルでのアルバイトの初日。バイオリンケースの鍵を落として、それを拾ってくれたのが西園寺さんだった。今思うと、私と西園寺さんを出会わせてくれたのも、このバイオリンだった。

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