囚われのシンデレラ【完結】
港区にある高級住宅地。周囲も豪奢な家が並んでいたが、その中でも群を抜いて立派な邸宅だった。
西園寺さんの後ろに付いて行った先にあった大きな居間には、こちらに背を向けて座るお父様と思われる方、困惑した表情を浮かべているお母様、そして――妹さんがいた。あの頃よりずっと大人っぽくなっていたけれど、すぐに分かった。
私を見て大きく目を見開き、何か言葉を発しようとして口を噤んでいる。
「私は、会うつもりはないと言ったはずだが――」
「それはお父さんの自由ですが、こちらにもこちらの意思があります」
その冷ややかな声に、後ろから思わず西園寺さんを見つめる。その時、不意に西園寺さんが私に振り向き、私の腰に手を当てた。その行動に驚く。
「こっちに」
びっくりして見上げる私に、西園寺さんが頷いてみせた。
「こちら、進藤あずささん。先日プロポーズして、承諾してもらった。お父さんにもお母さんにも、由羅にも、家族として受け入れてほしいと思っている」
家族を前にそう宣言した西園寺さんを見て、私も頭を下げた。
「初めまして、進藤あずさと申します。妻として、精一杯佳孝さんを支えて行けるよう頑張りますので、どうかよろしくお願い致します」
何も持っていない、この身一つで西園寺さんの妻になった。
顔を上げて、真っ直ぐにお父様に向き直る。
そうしたら、立ち上がってこちらを向いたお父様が、一瞬、驚いたような顔をした。それを不思議に思ったが、すぐにお父様は視線を私から西園寺さんに移していた。
「佳孝。おまえには今、大事な縁談がある。それを分かっていながら、こんな不意打ちのような、強硬手段のような真似をして。いい大人のすることか!」
私の言葉など、まるで聞こえていなかったかのように、お父様が怒号を発した。その声に反射的に肩をびくつかせてしまう。その時私の腰に添えられていた手に力が込められた。
「佳孝、どうして、公香さんじゃだめなの? あなたのこと10年も想い続けてくださった方なのよ?」
泣きつくように西園寺さんに言ったお母様の言葉が、胸にとどまる。
10年以上――?
もしかして……。
過去の記憶をたどる。斎藤さんが私のバイト先に来た日に言っていたことを懸命に思い出す。
”一人娘がいて、ずっと前から佳孝のことを密かに想っていたらしいんだ”
西園寺さんの今の縁談相手も、7年前と同じ方なの――?
「7年前、漆原さんには助けてもらった。その恩を、おまえはどう考えるつもりだ」
お父様の言葉が、その予想を確信に変えた。