囚われのシンデレラ【完結】

「あの時と、俺の考えは何一つ変わっていません。何の感情もない人とは、たとえ会社のためであっても結婚は出来ないと言ったはずだ。俺の中に誰もいないのなら愛せたかもしれない。でも、他の誰かを想いながら別の人と結婚するなんて馬鹿げたこと、絶対にしない。そんなことをしても誰も幸せになれない」

頭の中が真っ白になる。
再会してからずっと、西園寺さんが結婚していなかったことが不思議だった。

7年前、西園寺さんが縁談を断った?
だったら、どうして――。

「――それに。お父さんは『恩』と言うが、あれは、7年前、向こうが勝手に援助して来たことだ。この7年で借りは既に返している。いまさら恩を着せられる筋合いはない」

そう言った西園寺さんの声の冷ややかさに息を呑む。

「おまえに、心はないのか?」
「うちの経営が少し危うくなった時に考えていました。縁故に頼るような経営手法を取っても何もいいことはない。正々堂々、実力で、ホテル業界のトップに立ち続けるつもりです。そいういうわけで、あずささんと早々に籍を入れます。式については、決まり次第報告させていただきますので――」
「進藤さんと言ったかな」

お父様が、西園寺さんの声を遮り、私を射抜くように真っ直ぐに見た。

「あなたは、いずれセンチュリーのトップに立つ佳孝のために何が出来ますか? 自分にどんな価値があると思っていますか? 漆原さんという方は、不動産業界を引っ張る立場にある方だ。どれだけうちにとって心強い相手か分からない。そんな方との縁談を断って、あなたを選ぶと言う――」
「お父さん!」
「黙っていろ。佳孝に聞いているんじゃない、私は進藤さんに聞いているんだ。あなた自身はどう考えていますか?」

”君が佳孝の傍にいてしてやれることはあるか? どんな力になれる? 申し訳ないが、君にはどうすることもできない”

あの日の斎藤さんの言葉が蘇って口を開けない。その横で、西園寺さんが低い声で言い放った。

「お父さんも分からない人ですね。7年前俺ははっきりお父さんに言いました。俺の隣にいる人の価値は俺が決めると。周囲の人間でもあずさでもない、俺が決める」

”君が本当に佳孝を想ってくれるなら、出来ることは一つだ。君が佳孝から離れることだ”

私は――。

手が震える。それが伝播するように、身体中が震えだす。

”本当は佳孝も分かっている。このままではたくさんの人を苦しめることになると。それでも君がいるからどこにも動けない”

違ったのだ。西園寺さんは、どこにも動けなかったんじゃない。

”佳孝に、大切に想っている君を捨てるような残酷なこと、させないでやってくれ!”

違う。

あの時、西園寺さんは最後まで、私を選ぼうとしていてくれたんだ――。

なのに、私は。

「今日は許しを乞いに来たんじゃない。あずささんの紹介と報告に来ただけだから。もう用件は済みました。失礼します」

私は、呆然としながら広い居間を後にする。

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