囚われのシンデレラ【完結】


「――お待たせしました。どうぞ」
「ありがとう」

西園寺さんの前に器を置き、その正面に腰掛ける。

「じゃあ、食べましょうか」
「いただきます」

背筋をピンと伸ばして箸を持つ。西園寺さんは、食べる時の姿勢や仕草が、本当に綺麗だ。どうってことないただのそばでさえ、そう思う。
 私は母と一緒にお弁当を食べてしまったので、お腹は空いていない。でも、西園寺さんと一緒に年越しそばを食べたかった。

「――うん。美味しいな。胃に染み渡る」
「良かった」

味わうように早くも遅くもない食べ方に、心がじんわりと温かくなる。
こんな風にこたつで向かい合って、一緒に年越しそばを食べられる年末を迎えられるとはまったく思っていなかった。それもこれも、こうして来てくれた西園寺さんのおかげだ。

「私、明日の夜にはマンションに戻ります」
「え……?」

伏せられていた顔が上がる。

――もう君を信じることはないだろう。

斎藤さんが言った言葉がすぐに脳裏に浮かぶ。多分もう、私の言葉は西園寺さんに届かない。

 斎藤さんから聞いた事実は、私を打ちのめした。
 西園寺さんが私に心を閉ざすには十分過ぎる、西園寺さんにとっての事実。どれだけやり直したくても、時間だけは元に戻せない。7年前の話をしようとした時の、西園寺さんの激しい拒否反応を思い出す。それが、今なら分かる。それだけ、西園寺さんにとっての思い出したくもない過去。

『やめてくれ』

西園寺さんの表情が蘇るだけで私の心を硬直させる。

だけど。西園寺さんは、私を妻にした以上、心を配ろうとしてくれる――。

人の気持ちも巻き戻せない。もう私のことを前のようには想ってくれることはなくても、私は、西園寺さんの気遣いにちゃんと応えたい。

それが、西園寺さんと離れたこの数日、悩んで苦しんで出した答えだ。
妻として、役割を果たしたい。西園寺さんをほんの少しでも支えることができれば。好きな人のために頑張れるのなら、それは、やっぱり幸せなことだ。

「この部屋の大掃除も済んだのでもう大丈夫です。マンションから病院には通います。それに、年明けにはレッスンもあるし、バイオリンも練習しなくちゃいけませんから」
「……そうか」
「はい。勝手をして、すみませんでした」

改めて西園寺さんに頭を下げる。私は、西園寺さんの妻なのだ。

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