囚われのシンデレラ【完結】


 空港での出国審査を終えて、自分の乗る飛行機の搭乗ゲートへとたどり着く。ようやくほっと一息ついた。

 大きな窓ガラスの向こうには航空機が待機している。

 搭乗開始まで、あと40分くらいか。待合ロビーのベンチに腰掛けた。

日本を離れる――。

ここまで来ても、まだどこか少し実感がない。

 まったく新しい生活が始まる。実感がないながらも、身体は緊張を感じているみたいだ。
 無意識のうちに腕を掴んでいた左手が目に入る。そこにはもう指輪はない。西園寺さんにもらった婚約指輪も結婚指輪も、母の住むマンションに置いて来た。

それが、私なりの覚悟だろうか。なんて、かっこつけてみたものの――。

このバッグの中に、契約の切れたスマホが入っている。そんなものを持って来たのは、その中に唯一、西園寺さんがいるからだ。

 旅行で二人で撮った写真。思い出としてとどめた、私たちが夫婦としてそこにいた記録だ。偶然だけれど、その写真の中にちょうど私の左手が写り込んでいた。

この、私の顔。完全に恋する女の顔だ――。

そして、隣に座る西園寺さん。写真の中の二人に胸の奥がちくりと痛む。

 その時だった。搭乗ゲートのロビー中央にある、前方の大型テレビの音声が不意に耳に届く。

「――都内ホテルで、記者会見が行われるようです。センチュリーと言えば、日本のみならず世界中にホテル経営を展開している大グループです。そんな企業の突然の会見発表。一体、何が起きたのでしょうか。会場から中継でお伝えします」

映し出されていた情報番組の映像が切り替わる。

 現れたその姿に、息をするのを忘れて。気付けば立ち上がり、画面に向かって歩き出す。
< 340 / 365 >

この作品をシェア

pagetop