囚われのシンデレラ【完結】


 コンサートの日、少しドレスアップした服装をした。せっかくの、大きなホールでのコンサート。大人っぽくして西園寺さんの隣にいたい。ほとんど着ることのないワンピースに腕を通した。

「あらあら、今日はおめかしして。デートですか?」
「お、お母さん――」

階段を降りると、リビングから出て来たお母さんと出くわした。

「そんな顔しても、無駄よ。娘の変化くらいすぐ気付くんだから」
「ごめん……」

いつもは一つにまとめている髪を肩に流し、その髪を意味もなくいじる。

「変化の原因も全然、教えてくれないし」
「それもごめん」
「今度、紹介してね」

”いつか挨拶をしたい”

そう西園寺さんが言ってくれていたのを思い出す。

「……うん。そのうち」
「楽しみにしてるわー」

そのうち、いつか。そういう日が来たら――。

そう心の中で呟き、家を出た。


「あ……」

駅へと向かう途中、久しぶりに柊ちゃんと出くわした。

「……なんだよ、めかし込んで。御曹司様とデート?」

あのサロンコンサートの後、会場に来ていたのかを聞いたら、『あの辺にちょうど用事があったからついでに寄った』なんて素っ気なく言われた。

「コンサートに行くとこ」

頭のてっぺんからつま先まで、じろじろと見られて落ち着かない。

「ふーん」
「な、なによ」

柊ちゃんが腕を組んで、偉そうに顎を上げる。

「せいぜい、捨てられるまで楽しんどけよ。何もかも覚悟の上なんだろ」
「うるさい」

柊ちゃんの言い方に、何か違和感のようなものを感じる。言葉だけを聞けばかなり嫌味なのものなのに、その表情はどこか寂しげで。それが何を意味するかは分からない。

「じゃ、まあ、せいぜい楽しんで」

ひらひらと手だけをひらめかせ、柊ちゃんは去って行った。
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